自治体職員の読書ノート

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【1327冊目】中井英雄・齊藤愼・堀場勇夫・戸谷裕之『新しい地方財政論』

新しい地方財政論 (有斐閣アルマ)

新しい地方財政論 (有斐閣アルマ)

地方財政制度全般の解説から自治体経営論、経済学的アプローチから見た地方財政、そして財政を通した「国と地方」論まで、コンパクトな分量のなかに多岐にわたるテーマを盛り込んだ一冊。全体的には、財政という切り口で地方行政そのものを読みなおそうとしているような印象を受けた。

個人的に面白かったのは、経済学の理論を解説しつつ、それを地方財政にあてはめていく第三部。ミクロ経済学なんて大学の一般教養以来だが、それがこういうカタチで地方財政というフィールドに適用できるのか、と驚かされた。中でも気になったのは、オーツの「地方分権化定理」。これは要するに「地域の人々の選好に従って地方政府が公共サービスを供給することが好ましい(効率性が高い)」(p.167)というある種アタリマエのことを経済学の見地から定理として示しているのだが、まさに我が意を得たり、という思いであった。

あと、やや傍論に属する部分ではあるが、コミュニティとボランタリー組織の比較(P.242〜)も興味深い。それによると、ドイツのような「固定社会」(人々が先祖伝来の土地に定着している)では、顔見知りの住民同士のコミュニティが成立しやすいのに対して、移動しやすい文化特性をもったイギリスやアメリカのような「移動社会」では、地域を超えるボランタリー組織が成立しやすいという。

では日本はどうなのかということになるが、著者は日本を、大都市における移動社会、衛星都市における定住化社会、地方における固定社会の「混在」した状態と捉え、両者が併存しているのが現状であるという。確かに、そう考えていくと町内会型の「コミュニティ」とNPOのようなボランタリー組織のいささかぎこちない共存関係がちょっと理解できる気もする。

一つ一つのトピックは短いがよくまとまっており、頻出するグラフや図表もたいへん分かりやすい。そして何より、財政すなわちカネの流れを通してさまざまな方向から地方を照らし、その行政や政治、社会を浮かび上がらせることに成功しているのがすばらしい。反面、アプローチの仕方がちょっと独特かもしれないが、考え方も含めて知っておくとよいことがたくさん書いてある。財政プロパーというより、地方自治総論といったおもむきの一冊。