自治体職員の読書ノート

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【1145冊目】『百年文庫1「憧」』

(001)憧 (百年文庫)

(001)憧 (百年文庫)

前から気になっていたポプラ社のアンソロジー・シリーズ。あらためてちゃんと手にとってみたが、収録作品の絶妙な選択眼、漢字一文字のタイトリング、シンプルな装丁としゃれたフォント、いずれもすばらしい。

さて、その第1巻である本書に収められているのは、以下の3篇。では、それぞれ、簡単に感想をメモっておきましょう。そんなスタイルが、この文庫にはふさわしく思える。

太宰治「女生徒」
「あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い」ではじまる、女生徒の独白体。正直、女性の気持ち自体よくわからんが、中でも少女の気持ちほどわからないものはない。その感覚を内側から眺める本作は、ああ、これじゃ他人は(特にオトコは)少女の気持ちはわからんわな、と思う。そして、その感覚を綴ったのが「男性」の太宰治であったことに思い至った瞬間、太宰の天才性に身震いする。太宰治、享年38。自殺。それでも本書の3人の中では一番の「長生き」だ。

○レイモン・ラディゲ「ドニイズ」
 こちらは男性の独白だが、やはり少女ドニイズに恋い焦がれ、揺れ動くさまを綴った作品という点で、少女への「憧」の一作だ。ラスト、ドニイズをベッドで待つ「僕」は不覚にも寝入ってしまい、起きるとこんな手紙がおかれている。「あたし、鼾をかく人は嫌いです。ドニイズより」ドニイズよ、ドニイズよ!と「僕」は叫ぶ。そして、おそらくすべての男性読者も、ともに。ラディゲ、享年20。腸チフスにより死去。

久坂葉子「幾度目かの最期」
 この作者が最初の1巻に入ってくるところがすごい。18歳で書いた「ドミノのお告げ」が芥川賞候補となった伝説的作家だが、21歳で自殺。本作はその直前に書かれた悲痛な叫びのような作品。自分のなかの罪の重さや心根の醜さに打ちのめされ、それでも人を傷つけてしまう辛さ。大人になれば忘れてしまう青春の「死ぬほどのみっともなさ」とそれにもかかわらず、恋することで放たれる輝きを、心の傷から血を流しながら、正面から描ききった。鮮烈なる遺作。