自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1144冊目】『体育の教科書』

体育の教科書 小学校低学年~高学年用

体育の教科書 小学校低学年~高学年用

いつもとちょっと選書の方向性が違うが、まあ、たまにはいいでしょう。なにしろこの本、体育の苦手な子どもにとって「福音」となるであろう一冊なのだから。

とにかく、ものすごく懇切丁寧。かけっこやさかあがり、とびばこなど、小学校の体育の授業で取り上げられる種目ごとに、できるまでのプロセスを細かく分解し、ステップアップ形式で「できる」ところまで持っていくように工夫されている。しかもオールカラー、実例の写真入りだ。

例えば、「かけっこ」なら次のとおり。

ステップ1 大また歩きをする
ステップ2 階段を大またでのぼる
ステップ3 かかとでお尻をうつ
ステップ4 腕を後ろに大きくふる
ステップ5 階段かけのぼり
ステップ6 実際に走る

しかも、それぞれのステップごとに「イメージ」「コツ」「ありがちなNG」などが、かなり細かく載っている(例えば上のステップ1〜2なら「ふりこのように足をふる」、ステップ3なら「バタバタと足踏みするように」など)。さらに見開きごとに「効く! ひとこと」が載っており、なんと親が子にかけるアドバイスまで教えてくれるという、過剰なまでの親切さ。上に「体育の苦手な子どもにとって」この本は福音だと書いたが、訂正しよう。この本は「体育の苦手な子をもった親」への福音である。

だいたい、勉強でもそうだが、自分ができることを人に教えるというのは、実はすごく難しい。特にかけっこなんて、できる人は「ただ走れば」自然に上のステップ1〜6をクリアできているものなのだ。

たとえばウチでは小2の兄と5歳の妹がいるのだが、妹はこんなの読む前からかけっこもなわとびもできている(さかあがりももうちょっとでできそうだ)。ところが兄の方は、妹とほとんど同じ環境で育ち、同じような遊び方をしているはずなのに、どういうわけか、運動系は何をやってもイマイチなのだ。いや、水泳も自転車もそうだったのだが、コツを掴んでからの上達は早いと思うのだが、それまでにめっぽう時間がかかるのだ。

そういう時、親としてはいろいろ教えてあげようと思うのだが、自分自身はそれほど「かけっこ」も「てつぼう」も苦労した覚えがないので(球技や「とびばこ」は苦手だったが)、かえってタチが悪い。というのも、最初からある程度自然にできてしまうと、それを分解して「コツ」を取り出すのがかえって大変だからだ(世間の「体育の教師」の大半が、死ぬほど教え方がヘタなのも、たぶんこのあたりが原因であろう)。本書はそのあたりの基礎の基礎に戻って、できの悪い親に向かって「教え方」をガイダンスしてくれるわけなのである。これが福音でなくてなんだろうか。

ただ、注意すべきは、当たり前のことではあるが、本書を読んだからすぐ運動ができるようになる、ということは決してない。ここに書かれているのはできるようになるための「近道」には違いないのだが、あくまで「道」である以上、ある程度は自力で歩かないと話にならないのである。念のため。それでも、コツが明示されているというだけでも、「運動オンチ」の半分は解決できるように思われる。自分が子どものころ、こういう本があったらなあ、と思わされる一冊である。まあ、それほど、「体育」に苦労する子どもが増えてるんでしょうねえ……。