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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1031冊目】山岡淳一郎『後藤新平 日本の羅針盤となった男』

行政・自治・分権

後藤新平 日本の羅針盤となった男

後藤新平 日本の羅針盤となった男

本書の後半に、関東大震災のすさまじい描写が出てくる。

津波が甚大な被害をもたらした今般の東北地方の大地震に対して、関東大震災は火災が大きな犠牲を生んだ災害であった。しかも首都そのものを直撃する大震災ということで、その混乱ぶりはものすごかったようだ。中でもいたましいのは、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」とか「朝鮮人の暴動が起きる」などという事実無根のデマに基づき、在日朝鮮人の大量虐殺が起こったことだろう。それを思えば、今回流れたチェーンメールのデマなどかわいいものかもしれない。

政府の状況も惨憺たるものであった。そもそも直前の8月24日に加藤友三郎首相が急逝しており、首相不在の中で起きた大地震だった。混乱の中で9月2日には内田外務大臣が臨時首相となり、同日夕刻に第二次山本内閣が発足。首相の山本権兵衛は元海軍大臣で、シーメンス事件によって総辞職した首相経験者である。そして、その内務大臣として震災復興の総指揮を執ったのが、本書の主役である後藤新平だった。

後藤の復興案は破天荒なものだった。なにしろ当時の国家予算に相当する額を復興予算として計上し、地主から土地を買い上げて大規模な区画整理を行い、しかるのちにその土地を改めて払い下げるというのである。当然この案は各方面からの攻撃にあって大幅縮小となるのだが、金額はともかく、その考え方はたいへん面白い。思うに、後藤がやろうとしたのは、一部大地主による土地所有権の解体であり、東京の土地利用に「公共」を持ち込むという企みであったのではなかろうか。土地私有の中にも公共的な側面を認める西欧と異なり、日本では無制限の土地所有権が大胆な都市政策を阻んでいるという指摘は、まちづくりについて書かれた本の中でよく目にするが、後藤はそれを私有地の買い上げというドラスティックな手法によって解決し、公共性を都市計画の中にビルトインしようとしたのである。

都市復興案のみならず、この人の発想力と行動力は良い意味で日本人離れしている。日清戦争帰還兵への検疫業務から台湾統治策、満鉄総裁としての鉄道事業など、本書でくわしく書かれている内容は、今読んでも目が覚めるような水準のものばかり。本質をとらえる独自の直観、徹底したリアリズム、そしてある種のしたたかさを兼ね備えた稀有のプランナーであるといえるだろう。新たな「復興」が東北地方だけでなく日本全体に必要となっている今こそ、後藤新平をもう一度思い出すべきなのかもしれない。