自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1114冊目】寄本勝美・小原隆治編『新しい公共と自治の現場』

新しい公共と自治の現場

新しい公共と自治の現場

鳩山前首相が「新しい公共」を言い出し、円卓会議が設置されたのが、なんだかはるか昔のことのようだ。

その間に首相が交代し、参院選民主党が惨敗し、そして東日本大震災が起きた。議論は進んでいるのかもしれないが、「新しい公共」というフレーズがメディアをにぎわすことはほとんどなくなった。だがそれは、この概念がどうでもよくなったということではない。むしろ震災を経て、「新しい公共」の重要性は格段に高まっている。

本書は今年の2月に刊行されたものだ。もちろんそれぞれの記事はそれよりだいぶ前(まだ「新しい公共」の議論がそれなりにホットだった頃)に書かれており、いずれも論者それぞれの視点から「新しい公共」を考察するものとなっている。

ちなみに、本書は10年前に刊行された『公共を支える民』の続編である。前著は新自由主義的改革が進む中、「公共」が壊れつつあり、「民」が公共の担い手を離れて市場原理に巻き込まれていくことへの危機感を綴った本だった。はたしてその後、事態はまさに同書が警告したとおりの展開をみせた。特に非正規雇用を中心とした「貧困」の拡大、さらには「無縁社会」といわれる断絶した社会状態は、10年前の「改革」の悲惨な末路を象徴的にあらわしている。

19の章に分かれて多彩な議論が展開されており、多彩すぎて方向性がちょっとばらばらな気もするのだが、その中で本書を貫く軸となっているのが、こうした「公共」の崩壊とその再生をしなければならない、という強烈な危機感だ。ちなみにここで言う「公共」が鳩山前首相の言う「新しい公共」とほぼ同義なのはいうまでもなく、「公共」は官のみならず民全体が担うものである、という前提に立っている。

個人的に興味を惹かれたのは、「子縁」という新たな縁を提案する第1部第3章《「絶縁社会と「子縁」の可能性》(ただ、サラリーマン世帯を「公共心が乏しい」と斬って捨てている姿勢には共感できない)、ホームレスの自立を通して「排除型社会から包摂型社会へ」の方向性を探った第2部第3章《ホームレスの自立を支える自治体と市民の連携》、対馬への漂着ごみの問題を通して国家・自治体・NPOの関係にひそむ問題点をみごとにあぶりだした第2部第5章《「漂着ごみ」に見る古くて新しい公共の問題》などだが、これは個人的な興味のアンテナもあると思うので、目次を眺めて興味を感じるトピックだけでも読んでみるとよいのではなかろうか。「市民」という言葉を定義付けもせず安易に使っている方が多かったのには違和感を覚えたが、公共をめぐる問題を現場の目線からバランスよく取り上げた一冊であった。

公共を支える民―市民主権の地方自治