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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【993冊目】中西正司・上野千鶴子『当事者主権』

福祉・教育・医療

当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

本書で「当事者」という言葉で表現されているのは、一般に「問題を抱えている」「護られ、管理されるべき」とされる人々。すなわち、障害者であり、女性であり、高齢者であり、患者である。こうした人々は、得てして社会的に劣位に置かれ、福祉や医療の現場では「専門家」といわれる医師やケアマネ等によって一方的に処遇を決定され、なかなか主体的に判断し、行動する機会を与えられない。そこに見られるのは父権的な「パターナリズム」(温情的庇護主義)ばかりである。

本書の面白さは、こうしたあり方をすべて逆倒してみせるところにある。すなわち、「問題」は人々の側ではなく社会によって生み出されるものである。当事者のニーズを一番よく知るのは「専門家」ではなく当事者である人々自身である。必要なのは押しつけがましい温情ではなく、当事者自身の「主権」すなわち自己統治権・自己決定権の確保であり、尊重である。

こうした理念が最も活かされたのが、本書刊行当時に障害者福祉の分野で施行されていた支援費制度であった。障害者本人の自己決定権を尊重し、応能負担と契約主義を徹底させたこの制度が導入された背景には、障害者本人やその団体による強力なアドボカシー活動の蓄積があった。本書はこの「支援費制度」を、不十分な点はあるにせよひとつの理想形として描き、それと対比することによって介護保険の問題点や女性運動に欠けている点などをひとつひとつ挙げていく。もっとも、肝心の支援費制度はその後、当事者主権という意味ではかなり後退した感のある「障害者自立支援法」に基づく制度に変更されており、その意味で本書の記述は一部「過去のもの」となった部分がある。

とはいえ、本書で提起されているテーマ自体はきわめて重要かつ本質的であり、福祉や医療の根幹にかかわるパラダイムの変更を迫るものだと思う。ラディカルという言葉には「根本的」という意味がもともとあると聞いたことがあるが、本書の主張はまさに、福祉や社会、あるいは政治や民主主義のあり方に対するラディカルな異議申し立てとなっている。問題はサービスの「質」そのものというよりは、その背後にある「思想」のありかたなのである。