自治体職員の読書ノート

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【921冊目】大沢真理『現代日本の生活保障システム』

社会的排除を促進するシステムから、社会的包摂を実現するシステムへ。日本の福祉システムをジェンダーの視点から分析し、抜本的改革の青写真を提示する。

分析の下敷きになっているのは、エスピン・アンデルセン福祉国家三類型。福祉国家のタイプを「自由主義的」「保守的」「社会民主主義的」の3つに分類するこの類型論において、実は日本の福祉制度は「居場所」がない。そこで、著者はこの類型論をベースに、「男性稼ぎ主型」「両立支援型」「市場志向型」の新たな「生活保障システムの三類型」を設定する。カギとなっているのは、ジェンダーの視点。どのような福祉制度も、実は一定の性別分業観を暗黙のうちに含んでいるのであって、そこに着目することでこの三類型が整理できる、という。

中で日本が典型となる「男性稼ぎ主型」は、男性一人が家族全体を養い、女性は家庭を担うという役割分担が前提となっている。社会保険は「男性の稼働力喪失」というリスクに対応するものとなり(男性と女性で受給要件が異なる遺族年金が典型的)、妻子は世帯主たる男性に付随して保障を受ける。保育や介護などのサービスは、本来は女性が家庭の内部で担うべきものとされ、公的サービスの対象となるのは「保育に欠ける」などの例外的ケースに限られる(介護においてこれを転換したのが、介護保険制度である)。年金の「モデル世帯」も「サラリーマンと専業主婦」が前提になっているし、健康保険や厚生年金が企業ごとのタテワリとなっているのも、こうした社会保障観が影響している。

この視点はなかなか面白いと思う。制度の前提となっている「性別分業観」にまで踏み込むことで、かえって制度の本質がうまく照らし出されている。制度の変更がなかなかうまくいかない理由も、それが目に見えない「思想」に食い込んでいることが一因とあれば、納得できる部分もある。

実際、「男性稼ぎ主型」生活保障システムは、高度成長からバブル、そして1990年代の不況期まで、世の中がどんどん変わっているにも関わらず、さまざまな事情から抜本的な手直しが先送りされてきた。結果的に、日本の生活保障システムは、これがあることによってかえって人々の生活を脅かし、社会的排除を促進する「逆機能」をもつようになってしまっていると著者はいう。その打撃をまともに受けているのが、非正規雇用労働者であり、母子家庭であり、皮肉なことに「稼ぎ主」として家庭を支える責任を一身に負っている中高年男性である(かれらの収入減やリストラは家計の破綻に直結し、中高年自殺の一因となっている)。

こうした現状を打開するには、制度の根本となっている「男性稼ぎ主型」のモデルそのものを見直し、できるだけ多様な生活スタイル、多様な性別分業が包摂されるような生活保障システムへと転換を果たすことが必要となる……というと、なにやらものすごいドラスティックな改革が必要になりそうであるが、本書が提示する改革プランはむしろ、拍子抜けするほど穏当でノーマルなもの。言い換えれば、実現可能性がきわめて高い。キーワードは「ユニバーサルサービス」「年金一元化」。