自治体職員の読書ノート

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【779冊目】伯野卓彦『自治体クライシス』

自治体クライシス 赤字第三セクターとの闘い (講談社BIZ)

自治体クライシス 赤字第三セクターとの闘い (講談社BIZ)

2007年から2008年にかけて、NHKの『クローズアップ現代』で、第三セクターと公立病院の問題が2回にわたって取り上げられた。本書はその制作者が、番組取材とその後の追加取材をまとめた一冊。

そもそもNHKが、なぜこの問題をこの時期に取り上げたのか。その「原因」はひとつの法律であった。「自治体財政健全化法」(正確には「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」)。この法律は、自治体の会計の健全性を測る指標に、公営企業の会計を連結した結果を取り入れるというものであった。したがって、自治体単独での一般会計は「健全」でも、関連する第三セクターなどの財務状況が悪ければ、場合によっては自治体全体が「赤字」とみなされ、その比率によっては財政再生団体に転落する可能性もでてくる。自治体関係者にとってはかなり衝撃度の高い法律であった。

第三セクターの赤字は、そうでなくとも自治体関係者にとって非常に頭の痛い問題だった。本書で取り上げられている青森県大鰐町や北海道芦別市の事例は、特定の自治体だけの問題というより、多くの自治体が共通に抱える問題である。産業構造の転換を迫られていた80年代、リゾート法の旗振りのもとに、国の無責任な推進体制とデベロッパーの甘言につられて全国どこでも同じような「観光施設」が乱立した。その運営を担ったのが「半官半民」の第三セクターである。本書の中心的な事例である大鰐町の場合、当選直後の町長が地元選出の国会議員から「前の町長と話を進めていた」巨大リゾート施設の開発を要請され、観光会社とデベロッパーの「タウン開発」がやってきてリゾート開発をそそのかす。国土庁の担当者も「リゾート法の仕組みを利用すれば自治体側はノーリスク」と断言。衰退と過疎化に見舞われていた大鰐町の町長がここに活路を求めたことを、いったい誰が責められようか。

かくして町の財政規模をはるかに超える巨大な複合リゾート施設が誕生する。しかし近隣自治体でも同じような施設が乱立、客の食い合いになり、わずか数年で第三セクターは赤字に転落する。町は三セクの整理に踏み切れない。三セクが破綻した場合、その債務をすべて自治体側が一括して返済しなければならないとする「損失補償特約」が金融機関との間に結ばれていたからである。町の身の丈をはるかに超える債務である。とても支払えるものではない。結局、町は破綻状態の三セクに返済資金を注入し続けなければならず、その資金を捻出するために町役場は身をすり減らすようなリストラを行った。町には寂れた町並みと、巨大なリゾート施設の「廃墟」が残るのみとなっている。

こんな自治体が全国に山のようにあるのである。本書があぶり出したのはその問題の根の深さであった。地方が衰退し、リゾートに活路を求めざるを得ない状況、旗振り役となったにも関わらず責任をまったくとらない国、無責任に「客を連れてくる」と言い切るが最後は会社の延命を優先させて地域を見捨てるデベロッパー。何より、そうした連中の言いなりになって安易に何億もの金を投じて三セクを作り、身の丈に応じた主体的な判断というものをまったくしてこなかった地方自治体。そして築かれた「負の遺産」。そのツケは、今になって猛烈な勢いでやってきているのだ。

さらに深刻なのは公営病院である。リゾート施設の三セクと違い、病院は人間の命を預かる以上、簡単に休業することもつぶすこともできない。本書の後半ではその問題が取り上げられているが、病院維持と地域の存立という二者選択を迫られ、文字通りギリギリの行政運営を強いられる北海道赤平市の姿はまったく他人事ではない。

自治体関係者にとって、本書は血も凍るノンフィクションである。病院の赤字額が目の前をちらついて夜も眠れない管理職や、住民に罵声を浴びせられる首長の姿は、多くの自治体職員にとって「明日は我が身」。唯一の救いは、その中で信念をもって働き、生活ギリギリにまで給料を減らされながら、事態の打開にむけて必死で奮闘している職員の姿であった。そして、この厄介で複雑な問題をここまで的確に掘り起こし、バランスよくまとめた著者のジャーナリストとしての力量にも、敬意を払いたいと思う。NHKの底力は、こういう人が番組を作っているところにあるのだろう。