【912冊目】小西砂千夫『基本から学ぶ地方財政』
- 作者: 小西砂千夫
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 2009/07
- メディア: 単行本
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現行の地方財政制度には、確かにいろいろな問題がある。しかしその批判をする前に、まずはその「仕組み」を理解すべきだ。決して「わかりやすい」仕組みではないが、わかりやすさがすべてに優先するわけではない。
特に本書で念入りに記述されているのは、地方財政制度の根幹をなしている地方財政計画。これまで読んできた地方財政に関する本では、基準財政需要額や基準財政収入額についてはある程度解説されていたが、霞が関の内部で決まっていく地方財政計画についてはそれほど詳しい説明はなかったように思う。
しかし、本書によればこれこそが日本の地方財政制度の構造を理解するカギなのだ。自治体サイドから地方交付税制度を見ると、どうしても「わが自治体」の基準財政需要額や基準財政収入額ばかりが目についてしまいやすい。しかし、その裏側にはマクロの財政フレームとして「地方財政計画」があるのであり、それをめぐる財務省と総務省の攻防のうちに、実は地方交付税に関する大枠の部分はすべて決められてしまっているのだ。
本書はその点をものすごく詳細に解説してくれている。正直、私も地方財政計画については恥ずかしながらほとんど知らず、地方交付税は単に需要額と支出額の差額補てんの制度にすぎないと思っていた。つまり、地方財政制度についてはほとんど何も知らなかったことになる。本書はその意味でたいへん勉強になった。
言い訳をするわけではないが、地方財政制度はきわめてややこしい。特に地方交付税制度の算定方法の簡素化は長年の課題である。しかし、冒頭にも書いたとおり、「わかりやすい」ことが必ずしも善ではない。そもそも、地方交付税を含む地方財政制度がこれほどまでに複雑化したのは、まあいろいろな政策的な思惑が入り込んでいる部分もあるが、基本的には配分の妥当性を確保するためである。必要以上に複雑な部分があればもちろん簡素化すべきだが、単に「わかりにくいからわかりやすくすべき」というのは粗雑な議論だ。わかりやすさ」は「妥当性」とトレードオフの関係にあることを忘れてはならない。
本書は、自治体サイドに対してけっこう辛口だ。しかし、私が読んだかぎり、書かれていることは間違っていない。自治体サイドに、現在の地方財政制度に対する不満や批判があるのは、ある程度やむを得ない部分もある。しかし、その仕組みをきちんと押さえることもしないまま、漠然とした雰囲気や感情論だけで文句をつけるべきではない、というのが著者の指摘だ。少なくとも国の内部での動きも含めた地方財政全体のメカニズムを知ったうえで批判すべきなのだ。そのための絶好のテキストが、こうして刊行されているのだから……。