自治体職員の読書ノート

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【749冊目】東野圭吾『手紙』

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

期待以上の面白さ。犯罪加害者の家族の人生、という重いテーマを正面から取り上げ、きっちりと一篇の小説に仕上げている。たいしたものである。

主人公の直貴は、兄が強盗殺人で服役し、自らもその影響を受けて人生を大きく揺さぶられる。進学、就職、恋愛と、すべてに「服役中の兄」の影が覆いかぶさる。直貴の道を阻むのは、特定の人物というよりも「世間」という得体のしれない存在。誰もがその「世間」におもんばかり、「世間」に後ろ指をさされるのを怖れて、直貴とのあいだに壁をつくる。本書は、具体的なエピソードをうまく連ねることで、差別という問題の本当の難しさをあぶりだしている。

もっとも、本書は単に犯罪加害者の家族に対するお涙小説ではない。加害者本人との関係、被害者との関係、罪を償うということの意味など、いろいろな要素が絡み合って、意外なほどの奥深さを湛えている。直貴の就職先の社長、平野がそのあたりを代弁するキャラクターとなっている。

少し注文をいうなら被害者との関係についてやや甘いという感じはしたが、まあ、そのあたりまで全部盛り込んでしまったら小説が破綻していただろう。このあたりがギリギリの線だったのではないだろうか。