自治体職員の読書ノート

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【732冊目】アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』

身ぶりと言葉

身ぶりと言葉

タイトルは取っ付きやすそうだが、いやいやどうして、これはかなりの大物である。なにしろ、生物の発生と進化から人間の成り立ちに至り、さらに集団生活や社会の成立といった人間特有の現象を論じつつ、その未来までも展望しようというのである。しかもその中で、「技術」と「言語」という、人間が獲得した二大特質について、その萌芽から成立までを解明していくという「縦糸」がぴしりと通っている。

本書の説明は簡単ではない。一見、論理の糸がきちんと通っているようにおもえるのだが、実は行ったり来たりが多く、文章も実はあまり一貫していないように思えるところが見受けられる。その中で重大と思われる指摘も多く、何ページかに1回は「おっ」と目を見開かされるところもあるのだが、全体の筋道を本書の内容自体から取り出すだけの力量が自分にはないと感じる。

最低限のアウトラインだけをたどるのであれば、こういうことになるだろうか。生物の発生から進化を遂げ、ヒトの原型となった原人や旧人、新人は、直立歩行によって「手」が解放され、さらに前頭葉が発達したことによって大きな脳を手に入れる。その結果、石器の発達と並行するようにして社会が発達し、一方で記憶や技術が「外化」されていく。具体的には、表象(シンボル)を駆使した思考や表現が可能となり、文字によって知識を外に「書きとめる」ことで常に記憶することから解放される(音声→文字→書籍→パンチ・カード→コンピュータ)、また手によって担われていた技術も、高度な道具の発達によってその道具自体に担われるようになっていく(拳→石→弓矢→鉄砲→大砲→核兵器)。さらに、社会や都市が成立し、集団としての人間が次第に重要になってくる。人間は空間と時間を統一的に把握することをもくろみ、世界把握の方法を習得することで、真に社会的な存在として地球上に君臨するようになったのである。

理解としては間違っているかもしれないが、まあ、このように時間的にも空間的にも、きわめてスケールの大きい論考なのである。しかも内容がどんどん分岐し、ふくらみ、私ごときではとらえきれないほどの知の巨木を形成している。約40年前の著作であり、細かいところはすでに通用しなくなっている部分も多いと思われるが、大筋の部分では今なお重要な内容を含んでいる本だと思う。