自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【463冊目】宇都宮深志・田中充編著「事例に学ぶ自治体環境行政の最前線」

事例に学ぶ自治体環境行政の最前線~持続可能な地域社会の実現をめざして~

事例に学ぶ自治体環境行政の最前線~持続可能な地域社会の実現をめざして~

国内外の事例をふんだんに交えながら、環境行政の現状を考察する一冊。

冒頭、環境問題の考え方として「人間中心主義から生物(環境)主義へ」という言葉が出てきて驚く。これではディープ・エコロジーではないか。いや、ディープ・エコロジーがひとつの思想としてありうることは否定しない。しかし、行政が住民の嘱託を受けて取り組む環境政策が、「人間中心主義ではなく生物(環境)主義」であってよろしいのか、疑問に思ってしまった。

この「環境原理主義的行政宣言」を除けば、本書は環境行政の現状を知る上で非常に整理されており、参考になる点も多い。条例や計画のあり方、市民参加、マネジメントと進む総論の展開もわかりやすいし、各論も少数精鋭でよく吟味されている。個人的に参考になったのは、環境マネジメントシステムの解説。ISOやエコアクションなど、選択肢がいろいろあってかえってややこしくなってしまっている現状を少ない分量の中で要領よく解きほぐし、それぞれの制度の長短を明確に示してくれている。

また、事例についても充実した紹介がなされているが、温暖化対策に重点がおかれすぎているような印象もあった。もっとも、そもそも自治体の環境対策自体、二酸化炭素の排出抑制に偏った内容となっているのかもしれない。里山再生などの自然保護、水資源の問題、環境ホルモン外来種対策など、環境問題はもっと幅が広い。先進的な取り組みを読んでいるからかえってそう思うのかもしれないが、自治体には、他にもいろいろできることがあるような気がしてならなかった。