自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【462冊目】与謝野晶子「みだれ髪」

誰でも知っているような名歌もたくさん含まれている、与謝野晶子の出世作となった歌集であるが、全体に目を通したのははじめて。また、個々の歌を取り上げての解説、晶子の生涯を追った一文、さらに田辺聖子の文まで付されており、そのため、周辺事情もふくめて、与謝野晶子の鮮烈と濃厚をじっくりと感じ取ることができたように感じた。

自らの若さと美しさを自賛するかのような言葉、あるいは(おそらく鉄幹に向けて)放たれる情熱の言葉のつよさは、明治の世に書かれたとは思えないほどであり、まっすぐに読み手の胸を突く。短歌ならではの言葉の濃縮が、さらにそのエネルギーを倍加しており、本書はその意味で、短歌という様式そのもののもつ力をも示している。

言い換えれば、このような思い切った、切り口から血がほとばしるような瑞々しいことばを用いることで、本書は短歌というジャンルそのものの可能性を切り開いたともいえるだろう。たおやかで余韻に満ちた、霧にけぶるようなことば遣いから、どきりとするような生々しく血の通ったことばに代えることで。もっとも、中にはやや意味のとりにくい歌もいくつかあり、解説に助けられた面も少なくない。しかし全体としては、圧巻の一言。