自治体職員の読書ノート

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【376冊目】石川英輔・田中優子「大江戸ボランティア事情」

「江戸」と「ボランティア」とは、一見変わった取り合わせに見えるが、実はとんでもないことで、江戸時代の日本こそ、無償あるいはほとんど無償で人を助け、支え、あるいは町や村のために働くことが当たり前のようにして存在していたことが、本書を読むとよく分かる。もちろん当時「ボランティア」に相当する言葉があったわけではないが、それは本書によれば、名指しして呼ぶまでもない当たり前の行為だったからだという。むしろ、何をするにも「お金」が必要となってしまった現代社会だからこそ、そうでない行為をわざわざ「ボランティア」と呼称しているのである。

お互いが当たり前のように助け合っていた長屋の暮らし、ほとんど無償で先生が子どもたちを教えていた寺子屋、子どもでもお金がなくても旅行ができたことなど、当時の庶民生活は本当の意味で「豊か」なものであった。特に自治体職員として興味深く読んだのが、当時の行政機能が、警察や消防に至るまでほとんど「民間任せ」だったこと。町年寄や町名主、あるいは実働部隊としては大家さんなどが今で言う「行政」を取り仕切り、消防にあたった「火消し」も、とび職などの大工仕事を本業とする男たちであった。公的機関である奉行所もあるにはあったが、人数が少なくとても江戸のような大都市全域をカバーできなかったという。都市だけでなく地方も同じで、藩の役人の数はきわめて少なく、村々は村方三役の合議や寄合での話し合いなどによって、いわばきわめて民主主義的に物事を決め、運営していた。これらのことは、当時の日本がいかに「自治能力」にすぐれていたかの証左であり、本書でも指摘されているとおり、今のほうが自治と言う面では退化しているとしか思えない。

本書から伝わってくるのは、西洋近代思想における「市民民主主義」とは別の形で、日本にも精巧で民主主義的な統治システムが存在したことである。フランス革命のような「革命」が江戸時代の日本で起きなかったのは、西洋より「遅れている」からではなく、むしろこうした高度な自治システムがすでに存在していたからなのかもしれない。