【375冊目】雫井脩介「犯人に告ぐ」
- 作者: 雫井脩介
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/09/13
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ほとんど「劇場型捜査」という奇抜な発想一本で作ってしまった、という感のある長編小説。男児連続殺害事件の犯人「バッドマン」と、解決のためマスコミを利用して犯人を引きずり出そうとする巻島刑事の攻防を描く。
実は、最初、小さな男の子が殺されるというところで読むのをやめようかと思った。小さいお子さんがいる方はたいていそうだと思うのだが、道具立てとは分かっていても生理的に受け付けないものがある。しかも(ややネタバレになるかもしれないが)最後まで読んでも、特に「子ども」を殺す必然性がないのだから尚更だ。被害者の方々の悲しみも描かれてはいるが、どこか他人事のような気配が漂っており白々しい。動機もなんだかよく分からない。犯人が分かれば良いというものじゃないと思うのだが。
メインとなる「劇場型捜査」の展開はさすがに引き付けられて読んだ。警察の都合とマスコミの都合がぶつかり合う中でのさまざまな軋轢や奮闘、その中で徐々に「バッドマン」がおびき寄せられていくあたりは絶妙である。新しい事件を起こさずにこれほど「引っ張れる」のは相当なものだと思う。巻島のキャラクターもぴったり。いそうでいない刑事、という感じがうまく描けている。脇役では「津田長」が良い。この小説の登場人物で一番味があるのはこの人だろう。もっと登場してほしかった気もする。
ほかにもいろいろ枝葉の部分で消化不良のところが目立つが、幹の部分がしっかりしているからそれほど気にならない。なお、ネタバレになるので具体的には書かないが、ラストは少々あっけない印象。でも全体的には面白いと思う。子ども殺しという設定を単に「設定」として切り離して読めればもっと素直に小説の中に入れたかな、という気はする。