自治体職員の読書ノート

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【313冊目】石井昇「行政法と私法」

現代行政法学全集〈1〉行政法と私法 (現代行政法学全集 (1))

現代行政法学全集〈1〉行政法と私法 (現代行政法学全集 (1))

行政の現場でもっとも「使う」法律は、実は行政法より民法である。特に、契約行為が前提として成り立っている行政活動は思いのほか多い。しかし、民法の規定のうちいくつかについては、判例などによって、行政分野にそのままでは適用できないとされている。

これらはいわば行政法民法(私法)の「あいだ」に横たわる問題であるが、これを正面から扱ったテキストというのは案外少ない。民法の基本書にはほとんど触れられていないし、行政法の基本書でも、肝心の行政法分野の解説に忙しく、この問題にはなかなかページを割いてくれていないのが実情である。強いて言えば「行政判例百選」などであろうが、いきなり百選というのも一般職員にはハードルが高い。

その点、本書はこの「あいだ」の問題をきっちりと扱った希少なテキストである。行政が一方当事者となった場合の私法規定の取り扱いについては、当然、個々の条文自体には書かれていない。そこを決めているのは、これまでに蓄積された無数の判例の積み重ねである。本書はその判例をテーマごとに取り上げ、判旨や学説の状況について詳述している。適用されている条文は民法のものが多いのだが、内容をみると、むしろこれは一種の応用行政法であることに気付かされる。同時に、行政という特殊な事情が絡んだときに、どのように民法規定が影響を受けるかという応用民法でもある。

私は、最高裁の判断は行政寄りのものが多いような印象をもっていたが、本書を読む限り、むしろ行政の特殊事情を考慮した判決は地裁・高裁に多く、最高裁は案外に民法規定をストレートに適用しているものが多いように思われた。また、判例の結論部分も大切ではあるが、学ぶべきはむしろ、その結論に至るまでの裁判所の論理構成であろう。そこには、行政法民法、あるいは行政と私人の権利関係をどう調整し、バランスを取っていくかという難しいテーマについての、裁判所サイドからの「解答」のヒントが示されているからである。民法の基礎知識がないと読むにはややツライ本だが、一読の価値はあると思われる。