自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【231冊目】藤田宙靖「行政法入門」

行政法入門

行政法入門

行政法のテキストの中でも、とりわけコンパクトでわかりやすい一冊。著者は行政法の第一人者的存在で、現職の最高裁判事でもある。行政法学者が最高裁判事に名を連ねているのは、行政法に興味のある者としては素直に嬉しい。

本書は、枝葉の部分はかなり大胆にばっさりと切り捨てて、いわば行政法の「幹」の部分を捉えているため、詳しい知識や細かい議論を知りたい方には不向きだと思う。そのかわり、行政法特有の理解しづらい点やまぎらわしい点にはしっかりとページを割き、ユーモラスな比喩を交えながら丁寧に解説してくれている。文字通りの「入門書」なのである。言葉も講義調でとてもやわらかく読みやすい。初学者向けのテキストとして非常によくできていると思う。また、短時間に行政法の全体像をつかむのにも最適。事実、私自身本書を読んだのは、行政法のテキストからしばらく遠ざかっていたため、手早く全体像を思い出したかったからだったのだが、その目的はみごとにかなえられた。

また、教科書である以上、一般的(いわゆる「通説的」)な見解を中心に取り上げているのだが、ときおり、藤田氏自身の通説的見解への反論や主張が頭をもたげる部分があり、そのあたりに学者魂を感じさせてくれるのもうれしい。欲を言えばご自身の関わった最高裁判例についての考え方や思いを読みたかったが、それは入門書としての本書の範疇ではないだろう。