【2833冊目】川端康成『古都』
不思議な小説です。古都・京都の風物を背景に、千重子と苗子という幼い頃生き別れた双子の再会と交流を描いているのですが、読み終わって印象に残るのは、なぜか、背景のはずの京都の祇園祭やチンチン電車や北山杉のことばかり。まるで主人公たちが背景で、京都という場所のほうが主役のようなのです。
一方、千重子たちの物語のほうは、終わりが見えないままふっつりと終わります。苗子が秀男と結婚するのかどうかもわからず(たぶんしないのでしょう)、千重子と真一、その兄の竜助との関係もすっきりしません。苗子は千重子のところに泊まりますが、それもたぶんこの一回きりのことでしょう。すべては中途半端といえば中途半端なまま、なんともいえない余韻を残して小説が閉じられます。
だからこの本は、筋書きだけを追うと物足りないかもしれません。でも、やわらかい京ことばが醸し出す雰囲気と、京都の街並みの描写がじんわりと溶け合って、なんともいえない空気感が心地よく感じました。
そして読むうちに、千重子と苗子という二人が、実は京都そのものではないかと思えてきます。京都の商家で育った美しく上品な千重子は京都のエレガンスそのものであり、北山杉の立ち並ぶ山の中で暮らす苗子は、京都を囲む自然の化身のようなのです。
そんな二人が、一晩だけ同じ屋根の下で過ごし、そしてそれぞれの世界に戻っていく。冒頭に登場する、もみじの古木に咲いた、決して出会うことのない二本のスミレのように。本書はそんな、冒頭からラストまで間然とするところのない、川端文学の精華であるように思います。
最後までお読みいただき,ありがとうございました!
#読書 #読了