【2832冊目】トルーマン・カポーティ『カポーティ短篇集』
文庫オリジナルの短篇集とのことです。エッセイや旅行記に近いものから、やや長めの読みごたえのある作品までバランスよく収められています。
文章がいいですね(もちろん翻訳もすばらしいです)。こういう小説を読むと、筋書きだけを追いかけるような読書がホントにばからしくなります。「ヨーロッパへ」「イスキア」「スペイン縦断の旅」など、どれも筋書きらしい筋書きもほとんどありませんが、文章表現だけでたっぷり堪能できます。
「蔦におおわれたガラス窓の向こうに見えるゆがんだ風景のように、これほど恐ろしく澄みきった湖底には、きっとゴシック風の生き物がうごめいているに違いないからだ」(「ヨーロッパへ」より)
「まるで何人もの年老いた人夫が機関車を引っぱっているように、列車はゆっくりと這うようにグラナダを出た。南の空は砂漠のよう白く燃えている。ただ一つの雲が、移動するオアシスのように流れている(「スペイン縦断の旅」より)
物語のほうは、ビターでクールな大人の味わい。中で忘れがたいのは、「窓辺の灯」の、穏やかで暖かい家と思わせて、冷凍庫の中に積み重なった猫というギョッとするイメージが挿入されるところ、「クララきらら」で著者自身を思わせる語り手の「ぼく」が、「ぼく、男の子はいやなんです。女の子になりたいんです」と突然言うところ。「ローラ」の、翼を切り取られたカラスの存在も印象的でした。
カポーティ、久々に読んだけど、やっぱり良い。代表作といわれる作品を、また読み直してみたくなりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!