hachiroetoの読書ノート

この世の片隅でこっそり書き続けています。一応自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2801冊目】今村夏子『星の子』


新興宗教にハマっていく両親、家を飛び出した姉、学校や宗教のコミュニティでのやりとり。どれも、中学生の「わたし」の視点で描かれています。


会社員だった父は仕事を辞め、家は引っ越しを繰り返すたびに狭くなり、両親は何年も着ている緑色の上下のジャージでどこにでも出かけ、近所の公園で二人で謎の儀式をしている。まあ、客観的に見れば、「わたし」が置かれているのは、かなり悲惨な状況です。


たぶん、着ている服だってそんなにきれいではないでしょう。なにしろ家には修学旅行に行くためのお金もなく、父の弟がかわりに払ってくれるくらいですから。


しかし、そういう「客観的な悲惨さ」は、この小説ではほとんど描かれていません。あくまで「わたし」からの景色だけで綴られているのです。「わたし」は姉と違って、両親の宗教を受け入れ、一緒に教団の研修に出かけたりしているくらいですから、自身の状況もそれほど悲惨に見えていません。


でも、その合間合間に、微細な歪みのようなものがチラチラと見えるのです。友達とのやりとりや、両親とのちょっとした会話のすれ違いや、「わたし」を連れ出そうとしてくれる父の弟への態度などに。そのあたりの「出し方」が、この本はとても巧みです。


特に、憧れていた「南先生」が教室で「わたし」を面罵するところは強烈でした。「わたし」の視点からは見えない、「わたし」のキモさが、そこでリアルに見えてくる。でも、それで「わたし」が大きく変わることもない。「わたし」は、その後すぐに両親と宿泊研修に行くのです。そこで家族3人で肩を寄せ合って、星を眺めるところで、この小説は終わるのです。


ちなみに、巻末には小川洋子との対談もついています。これがとても素晴らしいもので、小川洋子ファンとしてもたいへん楽しめました。特に印象的だったのは、今村さんが三島賞の記者会見で言った「もう自分には書くことがない」という言葉への、小川さんの「書くことがないという人は信用できる」という返し。深いです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


#読書 #読了