自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2641冊目】 武田綾乃『君と漕ぐ』

内容的にヘビーな本が続いたので、気晴らしに爽やか系青春小説を読んでみた。


カヌー部の女子高生4人が主人公。2年生で部長の希衣は、勝ちたい気持ちは強いが実力が追いつかず、もう一人の2年生である千帆は、かなりの実力の持ち主だが上を目指すことに疲れ、カヌーは楽しめれば良いと思っている。


1年生も2人。恵梨香は中学まで不登校で、カヌーは一人でずっと漕いできたが、その実力は桁外れ。空気が読めない。そんな恵梨香と対照的なのが、カヌーは初心者だが明るくコミュ力高めの舞奈。本書は、この4人が出会い、県大会に出場するまでを描いている。


はい。とことん王道のスポーツ青春小説でありますが、衒いなく、そして丁寧な描き方は好感度高いです。「上を目指すか、楽しければ良いか」という運動部の永遠のテーマに対しても、よくあるスポ根モノのように勝利至上主義に偏らず、後者の立場もちゃんと尊重しています。カヌーについての解説も自然に、でも丁寧になされていて、カヌーの奥深さが伝わってきます。


男の子が全然出てこないのも良いですね。女子高生4人のドラマに的を絞ったことで、話に無駄がなくなり、テーマが明確になりました。


ちなみに4人の中で、本書のメインになっているのは悩み多き部長の希衣だと思います。冒頭の書き方からすれば、著者は、最初は舞奈の視点で、恵梨香をメインに話を作るつもりだったのでしょう。でも、おそらく書いているうちに、希衣の存在感がどんどん大きくなってきて、主役になってしまったのではないか、と。


予定とは違ったのかもしれませんが、それは登場人物が自然に動いてきた結果であって、それはつまり、本書が物語として「活きている」ことの証だと思います。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!