自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2272冊目】ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』

 

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

 

 

『その女アレックス』がバカ売れしたルメートルの、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1作。時系列からいっても前日譚にあたるが、邦訳が先に出てしまった『アレックス』にも本書の内容が触れられている。

これに加えて、邦訳は反則級のネタバレタイトルなので、なんとなく先読みができてしまうのだが、実はその先にあるとんでもない叙述トリックこそが、本書の最大のサプライズであって、二度読みしたくなるポイントなのだ。

だから本書の紹介はたいへん難しく、すでにだいぶネタバレしてしまっているのだが、これ以上のネタバレはさすがに避けたい。まあ、ある種の虚実皮膜というか、信頼性のおけない語り手というか、そういうことになってくるので、読んでいると足元が突き崩される気分になってくる。

ちなみにこの本、後味はきわめてよろしくない。『アレックス』の陰惨な真相も救いがたいし、この読書ノートで以前取り上げた『天国でまた会おう』の結末の暗さも戦争モノの必然であったと思うのだが、本書のラストはそういう意味での必然もなく、ただただ救いがない。まあ、これがフランス・ミステリのリアリズムなのかもしれないが、それにしても読み終わってどんよりした気分のままというのは、なんとも嫌なものである。

最後に、本書の文庫版解説は杉江松恋氏なのだが、これが見事なので推しておきたい。本書のトリックには一切触れずに魅力だけを名外科医のように摘出し、しかも本編を読み終わってから読むと、実は本書のメイントリックについてもしっかり触れていたことに気づくという、二重底の名解説なのである。

 

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)