【2158冊目】マット・リドレー『やわらかな遺伝子』
人間は、遺伝子によってすべての行動がプログラムされたロボットか。あるいは、環境次第でいかようにも変わりうる「タブラ・ラサ(まっさらな板)」なのか。本書はこの一大難問を、最新の生物学の知見から解き明かした一冊だ。
別々の養親に育てられた一卵性双生児の研究からは、まったく育てられ方が違っても、二人には驚くほどの類似性が見られることがわかっている。これを見ると、やっぱり人間は「生まれ」によって決まるのだと思えるだろう。一方、生まれたてのひな鳥は最初に見た相手を親だと認識し、その後をついて回る。この「刷り込み」という現象は、ひな鳥が「白紙」の状態だったからこそ起こるものではなかろうか。
だが、この考え方はどちらもおかしい、と著者は言う。問題は「生まれか育ちか」の二者択一ではないのである。そもそも学習がなぜ成り立つかといえば、学習するという機能が遺伝情報の中に組み込まれているからにほかならない。さらに言えば、遺伝子はもともと膨大な情報をもっていて、その中のどの部分が活性化するかは、環境によっても左右される。
確かに、すべての要素は遺伝子の中にある。だが、どの要素が活躍するかを決める遺伝子のスイッチは(それ自体も遺伝子なのだが)、環境によって押されることもあるのである。これがつまり、著者の言う「生まれは育ちを通して」、つまり本書の原題「NATURE VIA NURTURE」ということなのである。