自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2078冊目】筒井淳也『仕事と家族』

 

 
タイトルはシンプルきわまりないが、内容はけっこうガチな研究書。見た目は薄いが、内容はみっしり詰まっている。

大きな政府」のスウェーデン、「小さな政府」のアメリカ。まるで正反対に思えるこの2つの国が、実は働く女性が多く、出生率も高いという、ちょっと意外な話からこの本ははじまる。


ウソみたいな話だが、なぜこういう結果になったのか。原因は1970年代にさかのぼる。インフレと失業率の高まりが同時に起きたこの時代、各国がそれぞれに対応方針を模索した。

スウェーデンなど、いくつかの国は「大きな政府」路線をとりつつ医療・年金制度の大改革を行い、あわせて政府雇用を積極的に行った。ケアワーク等を行う女性を大量に雇ったのである。そのため公務員の人件費総額は高くなったが、女性の社会進出は進んだ。

対象的なのがアメリカだ。アメリカは規制緩和を進めて市場を活性化させ、積極的な雇用につなげることに成功した。雇用規制に欠け、長期の育児休業制度も存在しないことが、かえって雇用主としては女性を雇いやすいという状況につながった。

結局、この「水と油」の両国に共通していたのは、なんだかんだいって夫婦共働きのできる環境が整った、ということだった。この「共働き」が本書のキーワード。共働きのできる社会は、結婚や出産が増え、結果として少子化問題の改善が起こっているのである。

日本はどうだったか。1970年代の日本で提唱されたのは「日本型福祉社会」というとんでもないコンセプトだった。これは要するに、企業と家庭が「福祉」を一義的に担うというもので、つまりは会社や家庭への福祉の丸投げだった。当時、自民党がつくった日本型福祉社会構想のパンフレットには、スウェーデンの福祉のあり方は「家族関係を破壊する」と書かれていたそうである。

実際に起きたのは、まったく逆のことだった。自民党が作ってきた「家族丸投げ」の福祉社会は、家族を疲弊させ、崩壊させ、結婚したくない若者を増やし、当然ながら女性は介護や育児を全面的に担わされて共働きどころではなくなり、少子化もどんどん進んだ。実際は「日本型福祉社会」こそ、皮肉にも日本の家族関係を破壊してきたのだ。家族が家族として維持されるには、むしろ公的なサポートの充実が不可欠なのである。だが自民党は、家族を重視すると口ではいいながら、実際には家族に負担をかけ、家族を壊す政策を推し進めてきた。

「真に「家族重視」の政策とは、家族の責任を重くして責任を負わせ、結果的に人々を家族から離れさせてしまうものではあるまい。そうではなく、家族の負担を軽減することで、人々が家族を形成したいと望んだとき、それを阻む障害を小さくするものであるべきなのだ」(本書P.171)

 
本書は日本の「働き方」のあり方や家族をめぐる状況を、縦軸(これまでの流れ)と横軸(国際的な比較)によって分析した一冊だ。先ほど書いたとおり、その結論は「共働き社会」。男女が共に働くことのできる社会を作っていくことが、唯一かつ決定的な少子化対策になり、本当の意味で「家族」を復活させることにつながるということである。

本書はそのための具体的な処方箋を満載した一冊だ。具体的なデータに基づく考察は「女性の社会進出が少子化につながった」などという俗論を一蹴する。実際には、女性の社会進出こそが出生率を回復させる切り札なのである。