自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1908冊目】林志明『天使在人間』

 

天使在人間(てんしざいじんかん) 中国ハンセン病回復者の綴る17の短編小説

天使在人間(てんしざいじんかん) 中国ハンセン病回復者の綴る17の短編小説

 

 

「てんしざいじんかん」と読む。「誰の心にも天使がいる」という意味である。

本書は、中国のハンセン病元患者が、自身の体験や療友から聞いた話をもとに書いた短編小説集である。ハンセン病をテーマとした作品をハンセン病の元患者が書くこと自体きわめて少ないことだが、そんな小説が中国から邦訳されて日本で販売されたのだから、これはめったにない本との出会いなのである。

文化大革命日中戦争など、中国らしさを感じる部分もあるが(特に「漢詩」がさらりと挿入されるのがおもしろい)、日本のハンセン病患者と重なる部分も多い。病歴を隠す回復者、発病によって恋仲を引き裂かれる男女、家族の喪失と回復……。差別と偏見にさらされ、過酷な環境で生きざるを得ないからこそ、そこで輝く人間の心の美しさが心を打つ。まさに「誰の心にも天使がいる」のである。

収められている17篇はどれも、朴訥な文章がかえってストレートに心を打つ。著者がくぐり抜けてきた70年以上のハンセン病体験が、ここには見事に結晶している。外から取材しただけでは、患者やその家族、恋人の心の奥底に、ここまで深く分け入って書くことはできなかっただろう。やはりこれは、体験者でなければ書けない稀有な一冊なのである。

個人的に印象に残ったのは、ハンセン病が癒えて久しぶりに帰郷した元患者と、彼を受け入れる家族の暖かい愛情に心あたたまる「雪の夜の帰り人」、日中戦争のさなかの悲恋を描いた「天国へ舞い戻った天使」、「お父さんは家にいるかな?」と未亡人宅を訪ねた男の正体に衝撃が走る「三度父をたずねた異郷人」、ハンセン病患者同士の不思議な恋愛と数奇な人生を描いた「人生、山あり谷あり」など。短めの作品に、かえって瞬時に心に焼きつけられる何かがあった。