自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1314冊目】寺本晃久・末永弘・岡部耕典・岩橋誠治『良い支援?』

良い支援?―知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援

良い支援?―知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援

知的障害と判定された人に交付される「療育手帳」をもつ人は約547,000人。そのうち入所施設で暮らす人がおよそ128,000人。それ以外のほとんどは家族と同居し、福祉作業所や通所施設などに通っているか、グループホームで生活している。一方、「自立生活」をしている知的障害・自閉の人々の数は、せいぜい全国で100人の単位。本書の著者の一人である寺本氏は、そのように推測している。

1970〜80年代以降、障害者運動のなかで「自立生活」という考え方が掲げられるようになった。それは「施設や親の庇護と管理を否定し、地域の中で、介助やさまざまな支援を使いながら自分らしく生きたいように生きようとすること」(p.47)を意味する。本書はこの「自立生活」を望ましいあり方として掲げ、そのための支援のあり方を考える一冊だ。

とはいえ、知的障害や自閉の人々に対して「自分らしく生きたいように生きる」ことを支援するのは、決して簡単ではない。身体障害のみの方であれば、よほど重度の場合を除いて、少なくとも自分の意志を何らかの形で伝えることはできるものと思われる。しかし、知的障害の場合、そのことがすでに至難なのだ。例えば「今日の夕飯に何が食べたいか」をどう把握するか。ある人は、料理本を開くと鶏のから揚げの写真を指すので、介助者は毎日鶏のから揚げを作っていたが、当人は実はその写真に写っていたビールが飲みたかっただけだったという。こういう例は、知的障害者福祉の現場には山ほどある。

これまでの知的障害者福祉の歴史は、決定権を当事者から奪い、施設や家族が決めていくことの繰り返しだった。本書の著者たちが掲げる「自立生活」は、あえてそこを打ち破り、本人の主体性や意志を最大限尊重しようとしている。しかしそれは、さまざまな矛盾を、支援者自身が引き受けていく過程でもある。本書はどこをとっても、そんな矛盾と正面から取っ組み合い、その中でのたうつ支援の現場から発せられた、リアルな言葉に満ちている。そしてその中に、そもそも「支援」とはどういうことなのか、障害者が、ひいては人が地域で生活していくとはどういうことなのか、という根源的な問いが見えてくるのだ。

支援や介護に関わる人なら、読んで損はない一冊。