【1073冊目】上野千鶴子・辻元清美『世代間連帯』
- 作者: 上野千鶴子,辻元清美
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/07/22
- メディア: 新書
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辛口で鳴るお二人の対談形式。日本の「仕事、住まい」「家族、子ども、教育」「医療、介護、年金」「税金、経済、社会連帯」を縦横に論じ、終章「世代間連帯」につなげていくという仕立てになっている。
一見言いたい放題の対談のように思えるが、よく読むとかなり丁寧に議論が組み立てられている。現状分析、問題点の摘出、解決策の提示がきちんとリンクしており、言いっぷりは乱暴だがロジックがしっかりしている。そのバランス感覚が面白い。
タイトルは「世代間連帯」となっているが、本書の結論は、「世代間」に限らずあらゆる人々が「連帯」することが重要だ、というもの。なぜなら、分断統治こそが「支配者」の方法であるからだ。彼らは弱者同士を巧みに分断し、お互いへの不信感をあおりたてることで、その背後にあるより大きな矛盾や搾取を隠蔽する。
「高齢者」「団塊の世代」「外国人」「専業主婦」「生活保護受給者」……。「弱い者」が「さらに弱い者」を攻撃することは、結果的に自らにダメージを与えることにつながる。その典型例が、郵政選挙で小泉自民党に票を投じた若者だろう。そういうことはもうやめませんか、というのが、本書のメッセージである。むしろ「弱者こそ連帯を」なのである。
本書が提示するのは、一言でいえば「より自由で、より生きやすい」生き方だ。収入はそこそこでよい。年収300万円あればそれが可能だし、夫婦共稼ぎで年収600万円になる。非正規雇用を選ぶのは本人の自由だ。それが低賃金・使い捨ての「貧困」とセットになっている現状こそが問題なのである。本来、雇用形態が不安定なのであれば、給料はその分高く設定されるべきなのだ。著者はそう指摘し、「同一価値労働同一賃金」を訴える。ね、明快でしょう。
上に書いたのは本書の最初の方にある「仕事」の章で展開されている議論の一部なのだが、ほかにも年齢差別の禁止、ジェンダー平等の視点、グリーン・ニューディールならぬ「ヒューマン・ニューディール」の実施など、日本の今後を打開するためのいろいろなヒントが詰まった一冊。特に上野千鶴子の発想はラディカルですばらしい。雇用、医療、教育、福祉などの「生きる」ための制度設計がひとつながりのものとして発想されている。私が総理大臣なら、上野千鶴子を厚生労働大臣にスカウトしたい。