【900冊目】『荘子』
- 作者: 竹内好,松枝茂夫,岸陽子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/09/15
- メディア: 文庫
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「老荘」とよくひとまとめにされるが、老子に比べると、この『荘子』のほうが捉えづらく、漠然としている。そして、その「捉えづらさ」こそが、実は荘子の本質に通じているような気がしている。
『老子』が抽象的な内容ばかりであったのに対し、『荘子』は逸話や例え話などがやたらと登場する。『老子』は章だてが比較的きちんとしているが、『荘子』は内篇・外篇・雑篇に分かれており、特に外篇・雑篇には、明らかに荘子の言葉とは思えないものが相当まぎれこんでいるらしい。本書は、そのあたりの選別をどのように行ったのかよくわからない(有名な故事成語や逸話などを中心に取り上げたということらしい)が、荘子の言葉としてもっとも信頼性が高いと言われる内篇を中心に取り上げていること、書店で何冊かパラパラと比較したところ、現代語訳がすっと入ってきたこと、一冊にまとまっていることが気に入って選んだもの。ちなみに、岩波文庫だと4分冊のボリュームになっている。
内容については、実はきわめてシンプルだ。しかし、それはおそろしく底の深いシンプルであって、その底を見極めることは容易ではない。万物斉同。無為自然。すべてを分けずに捉え、自然のままに生きる。ここに書かれているのは、ある意味、究極の「反思想」。『荘子』が編まれたのは紀元前4世紀頃らしいが、その後、現代に至るまで、おそらく本書を超える反文明・反道徳・反思想の書は、世界のどこを見ても出ていない。なるほど、孔子・老子・荘子・墨子らをこの時代に得てしまったのでは、その後の中国思想が2000年以上にわたり停滞したのも分かる気がする。
『荘子』は、その前に登場した孔子の儒教に対する徹底的なアンチテーゼとなっている。孔子の思想は一言でいえば、人為的な文明の思想である。自然の欲求を抑圧し、礼と楽をメインとした道徳律を徹底したのが孔子であった。それに対して、荘子は自然に従い、出世や評価を求めず、人工的な礼楽をとことん否定した。しかも、老子と違うのは、それをレトリックとたとえ話を駆使してユーモラスに展開したこと。実際、読み物としても、本書は『論語』や『老子』に比べて各段に面白い。人類の生んだ思想の究極形のひとつを知るために、ぜひ読むべき一冊である。