自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【775冊目】NPO法人ETIC.編『好きなまちで仕事を創る』

好きなまちで仕事を創る―Address the Smile

好きなまちで仕事を創る―Address the Smile

好きなことを、仕事にする。その「大変さ」と「楽しさ」を超濃縮した本。

登場するのは、地域に根差し、地域を元気にすることを仕事にしている人々。有名な徳島県上勝町の「いろどり」や滋賀県長浜市の「黒壁」、風車事業の「北海道グリーンファンド」など著名なところがずらり揃っている。しかし、本書は単なる成功事例本ではない。むしろこの本は、ひとつひとつの事業の立ち上げから現在までのプロセスに光を当て、特に「うまくいかなかったところ」「転換点になったところ」を丁寧にあぶりだしているところが特徴。その裏側には、この本を「後に続く人々」への手引書にしようという、作り手の方々の意志があるように思う。

そのため、本書は地域での起業のためのヒント満載の一冊にもなっているのだが、一方では、ただの読み手でいることを許してくれない一冊でもあった。なにしろ、みなさん本当に素晴らしい生き方なのだ。仕事の意義と生活の充実、人生の意義が自然なかたちでつながりあっている。本書には事業者や参加者の写真がたっぷり載っているのだが、そこに写っている笑顔がまた素晴らしい。そのへんのサラリーマンや役人で、こんな素敵な笑顔の出るような仕事をやれている人が何人いるだろうか。だから、本書は読んでいてもなかなか没頭できない厄介な本でもあった。ページをめくるたびに、自分なら何がやりたいのか、自分なら何ができるだろうかと、いちいち止まって考え込んでしまうから。前に駒崎氏の本を読んで公務員を辞めたくなったことがあったが、またぞろそのビョーキが再燃しそうである。

もっとも、本書の教訓のひとつは「組織の形態より、まずは事業の中身」ということであったのだから、それは性急というものだろう(組織形態は事業の遂行にあったものを選べばよい。そして、事業の意義に照らして適正なサイズを守り、意義を損なうような拡大はしない)。だから、まずは(本書に登場する市役所職員の方のように)今の立場、今の問題意識からスタートして、何かできることはないかを考えるべきなのだろう。それが行政の枠を超えるなのであれば、別の枠を準備すればよいだけの話だ。さて、私も「シビックアントレプレナー」になれるかしらん。