自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【483冊目】猪口邦子・勝間和代「猪口さん、なぜ少子化が問題なのですか?」

初の少子化担当大臣であり、政治学者でもある猪口邦子氏と、経済評論家であり、ワーキングマザーのためのサイト「ムギ畑」を主宰する勝間和代氏。二人の共通点はいろいろあるが、なんと言っても二人とも働きながら子供を育てたという経験を持つワーキングマザーである点が大きい。なぜなら、ワーキングマザーを含む母親(及びその予備軍)こそが「少子化」の当事者であり、さらにいえば、子供を産めない、育てられないという社会状況の「被害者」であるからである。本書は、その二人が主に一問一答形式で少子化を論ずる一冊。

少子化というと、「産まない女性」を非難したり、原因をそこに求めようとする議論が必ず起こるが、本書では当然、この認識は否定される。むしろ、産みたい女性が子どもを産めないという現代日本の状況にこそ原因がある。周囲の無理解、子どもに割かれる国家予算の少なさ、足りない保育園……。中でも大きいのが、実は男性の長時間労働と「ノミニケーション」による育児への不参加である。

いずれにせよ、さまざまな原因がある以上、少子化対策もまた多様であらざるを得ない。猪口氏は、少子化への「唯一の決定的な対策」があるという発想を、経済的な問題解決のテンプレートとして退ける。猪口大臣が立ち上げたさまざまな対策は本書に詳しく紹介されている。しかし、その後この問題はどこに行ったのか、景気後退が叫ばれる中でまたもや少子化対策への意識は吹き飛んでしまったのではないか、心配である。

思うに、少子化問題は単に人口減少による地域の衰退や、人口のアンバランスによる年金や福祉の問題ではない。このことが問題なのは、まさしくそこに、上に挙げたような現代の日本が抱えるさまざまな問題が集約的に現れているゆえである。言い換えれば、女性と子どもという、もっとも非力な存在に、そのゆがみが現れているのかもしれない。そんなことを、本書を読んで考えさせられた。