自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【458冊目】高橋伸彰「少子高齢化の死角」

少子高齢化の死角―本当の危機とは何か (シリーズ・現代経済学)

少子高齢化の死角―本当の危機とは何か (シリーズ・現代経済学)

年金や医療、介護など、福祉をめぐるさまざまな制度が今「手詰まり状況」になっている。社会全体の構造的な問題、人々の意識の問題、財政の問題、さらには「官」への不信などががんじがらめに絡まりあい、解決策がまるで見えない状態だ。本書はそのありようを、少子高齢化という大きなフレームから分析し、現状を論じた一冊である。

少子高齢化全体の状況から年金、介護、医療などの「各論」部分までを、綿密なデータ分析と具体的な事例を織り交ぜながら論じているが、図表やグラフ、文章が非常に分かりやすく組み合わされており、現状の理解という点では申し分ない(ただ、2005年の出版であるため、その後のいわゆる社会保険庁問題や後期高齢者医療などは当然フォローされていない)。また、こうした状況に至った理由として社会の構造的要因とともに、政府の怠慢を手厳しく取り上げている。さらに、アメリカとフランスの両極端ともいえる福祉制度を紹介した上で、日本の進む道がどっちつかずの中途半端なものとなっていると指摘し、日本の国情や国民性を踏まえた制度設計が必要としているが、同感。

また、少子化についても本質的な議論がされているが、中で印象に残ったのは、結婚や出産をきっかけに退職することとなった女性を対象とした調査の結果であった。それによると、結婚直後に無職であった女性の38.4%(第1子妊娠後では9.9%、第1子出産直後では9.4%)が、働いていない理由として「結婚・出産で退職する雰囲気があった」ため退職したと回答しているのである。この「雰囲気」が職場のものか、家庭のものかは分からないが、いずれにせよ「雰囲気」というとらえどころのない要因が、案外に大きな影響を与えていることは見逃せないように思う。制度ばかりを整えても、意識がついてこなければあまり意味がない、ということであろう(典型的なのは男性の育児休業であろう)。

いずれにせよ(ここからはまったくの私見であるが)、子どもを産むのは別に社会全体の人口ピラミッドのためではないのであって、そこは切り離して考えなければならない。問題は、産みたいが産めない女性及びそのパートナーがいるということであり、そこに「産む自由」(が憲法上観念できるかどうかはともかく)が侵害されているということなのだと思う。産みたい人はそれによって不利な扱いを受けることなく子どもを産み育てられるような社会制度があって、それでも出生率が上昇しないのなら、それはそれで仕方ないではないか。