自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【257冊目】スティーヴン・キング「トム・ゴードンに恋した少女」

トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)

トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)

家族とはぐれ広大な森の中に迷い込んだ9歳の女の子、トリシアのサバイバルを描いている。ほとんどの場面が女の子一人、しかもひたすら森の中をさまよい続けるという内容なのだが、これをまったく飽きさせず、ハラハラドキドキ、緩急自在のジェットコースターさながら最後まで一気に読ませてしまうところがさすがキングの筆力であり、ストーリーテラーたるゆえんであろう。

それに、9歳の少女という、子供から大人になろうとしつつある微妙な年齢の心理をおそろしくリアルに描き出しているのもすごい。デビュー作の「キャリー」も年頃の少女の心理描写や行動描写が異様に冴え渡っていたが、さらに磨きがかかっている。

そして、絶望的なサバイバルの中でトリシアの心の拠り所として「登場」するのはボストン・レッドソックスの押さえの切り札、トム・ゴードン。この設定もまたうまい。しかもそれが、母親と離婚して離れてしまった父親の影響であるところが泣かせるのである。トム・ゴードンへの憧れの向こうに、父親への想いが二重写しとなっているのである。それにしても、いくら父親の影響といっても9歳の少女が一野球選手にこれほど思い入れをもてるということは、やはりアメリカは野球の国なんだな、と感じる。日本のプロ野球もオヤジのファンは多いが、9歳の少女が心の拠り所にするような選手って誰かいるだろうか?