自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【237冊目】倉田百三「出家とその弟子」

浄土真宗の開祖、親鸞の教えを印象的に描いた戯曲。大正6年に刊行され、漱石の「こころ」と並び当時のベストセラーになったらしい。

親鸞の教えとはいっても、仏教、なかんずく浄土真宗の教えそのものを解説するものではなく、時にはキリスト教のモチーフや考え方を取り入れながら、人間にとっての救済とは何か、人生とは何かを、洋の東西を問わず普遍的に問うものとなっている。親鸞の言行も、必ずしも史実に忠実というわけではなく、むしろひとつの創作とみるべきであるらしい。しかし、それだけにある種きわめて純度の高いかたちで、宗教というもの、あるいはそれによってもたらされる救いというものを描き、掘り下げており、非常に深く本質的なところで親鸞の思想のラディカルさと奥深さ、懐の広さを捉えているように思われる。

特に印象的なのは、遊女かえでとの恋に悩む弟子の唯円を非難する僧侶たちに対して、親鸞が語りかける場面であった。唯円の行いを悪しきものとして断罪しようとする僧に対する親鸞の言葉は、宗教というものの逆説的な本質を突いてやまない。

何処に悪くない人間がいる。皆悪いのだよ。外の事ならともかくも悪いからというのは理由にならない。少くともこのお寺では。このお寺には悪人ばかりいるはずだ。この寺が他の寺と違うのはそこではなかったか。仏様のお慈悲は罪人としての私たちの上に雨と降るのだ。(第5幕第2場)