hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【215冊目】レイ・ブラッドベリ「華氏451度」

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

本を持つことが禁じられた世界を描いたブラッドベリの古典的名作である。

最初に読んだのは10年ほど前だったが、ブラッドベリらしからぬモノクロのくすんだ世界を、他の作品の叙情的で美しい幻想世界に比べて地味に感じてしまい、あまり良い印象がなかった。しかし、読書日記をつけることを決めた時、なぜだか1冊目はこの本にしようとごく自然に思っていた。それだけ、この本の印象は私の無意識に深く食い込んでいたのかもしれない。

そこでざっと読み返してみたのだが、あらためてすごい小説であると感じた。誤解していたところもあった。暗く地味な小説世界は、まさしくそれこそがブラッドベリの叙情であり、この小説における世界観なのであった。また、この小説における国家は、書物を禁じ、ゆったり歩いて自然を見つめたり、物事の本質を考えたりすることを否定するのだが、こうした圧迫的な姿勢は民衆に支持されており、むしろ民衆こそが進んで国家がテレビやラジオで流す圧倒的な情報に身を浸し、考えることを進んで拒否しているのであった。

そして、圧巻は後半に登場する「人間書物」である。すなわち、一人一人の人間がそれぞれプラトンやシェークスピア、聖書などの本を記憶し、自らを書物化してしまうのである。この着想にはブラッドベリの究極の皮肉と叙情、本に対する思いがすべて込められ、見事に結晶化していると思う。本書は、無類の愛書家でもあったブラッドベリの、本に対する熱烈なオマージュであったのではなかろうか。