【156冊目】塩野七生「ローマから日本が見える」

- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2005/06
- メディア: 単行本
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ローマ建国から帝政移行までのローマの歴史を概観している。
著者の代表作である「ローマ人の物語」のダイジェスト版といったところ。「日本が見える」とあるが、日本との比較は付け足し程度で、ローマという稀有の国家がどのように成立、展開してきたかを急ぎ足で眺めるものとなっている。
著者自身が本書で述べているが、歴史の醍醐味はやはりディテールにあり、その点で本書はかなり物足りない部分がある。しかし、それでもローマという国家のたぐいまれなところ、特にその「しぶとさ」とでもいうべき側面は十分に描き出されており、面白い。試行錯誤を重ね、時には多くの血を流しながら、それでもそのたびに経験に学び、修正と改革を繰り返しながら変化してゆく国家のダイナミズムは感動的ですらある。特に強調されているのが、成功や勝利の後こそ危機が待っているという皮肉である。過去の成功体験があると、得てして人はそれにとらわれてしまい、時代の変化と制度のミスマッチに気づかず(あるいは、気づいてもどうしてよいか分からず)、もしくは既得権益を得た人々に改革を妨げられる。その結果、いつしか国家のシステムが破綻し、国家は没落する。ローマもその運命を何度となくたどりかけるが、瀬戸際で息を吹き返し、時代にあった新たな制度を導入して国家を危地から救うのである。なぜそんなことができたのか、それを学ぶことは、ひるがえって今の日本をとりまく危機とその打開策のヒントを得ることにつながる。そのあたりが「日本が見える」とされるゆえんであろう。
「ローマ人の物語」は以前に途中まで読んだが、本書を読んだら無性に読み返したくなってしまった。特にハンニバルとスキピオ、ユリウス・カエサルにまた会いたくなった。こうした「人間」の魅力が存分に詰まっているのも、ローマ史の強烈な魅力である。