自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【49冊目】田口ランディ「鳥はみずからの力だけでは飛べない」

鳥はみずからの力だけでは飛べない

鳥はみずからの力だけでは飛べない

ひきこもりの高校生「一穂」に田口ランディが書いた10通の手紙。

「ひきこもり」については、すでに世の中にいろいろな論評や意見がなされている。しかし、本書が異質なのは、他の本が世の中に向けて広く書かれているのに対し、著者はあくまで「ひとりの高校生」に対し、ピンポイントで自分の考えを書き、問いかけているところである。

著者の姿勢は徹底的に率直である。自分の中の矛盾、怒り、戸惑いを隠さないし、過去の体験も、人から教わったことも、すべてをストレートに書いている(という体裁を取っている)。しかし、その裏にあるのは、いろんな感情や事実や体験を織り交ぜながら、読み手を深い深い問いかけに導いていく著者の構成力、筆力である。だから、とても難しいことが問われているにも関わらず、読み手は一気にその深みまで連れて行かれる。

この本はひきこもり論ではないし、この手紙は、いわゆる「ひきこもり」に対して書かれた手紙ではない。あくまで、一穂という個人に向けてまっすぐに書かれている。そして、いわゆる高校生が悩みがちな、考えてしまいがちないろんなことに対して、著者の考えたこと、感じたことを、ひとつひとつ、丁寧に書いている。

そこに、安易な押し付けやごまかしがまったくないのがすごい。悪いと思うことは悪いとはっきり言い、分からないことは分からないと書き、批判すべきところは批判し、遠慮すべきところは遠慮する。簡単なようだが、なかなかできないことである。それを、著者は絶妙なバランスの中でなしとげている。 一人の人間に率直に向かい合うことの難しさと大切さを、私は本書を読んで何よりも感じた。