自治体職員の読書ノート

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【2241冊目】今井照・自治体政策研究会編著『福島インサイドストーリー』

 

福島インサイドストーリー

福島インサイドストーリー

 

 
以前読んだ『防災の決め手「災害エスノグラフィー」』という本を思い出した。阪神・淡路大震災の「現場」での記録を書き起こした一冊だったが、こちらは東日本大震災後の福島における、市町村職員の奮闘の記録である。

もっとも、当時の福島県内の市町村職員が置かれた状況は、他の災害のそれと比べることさえむずかしい。地震や台風のような災害は、どんなに過酷なものであっても、過去の蓄積があり、先例がある。しかし原発事故で、町がまるごと避難することなど、かつてどんな自治体も経験したことはない。

国や県からもほとんど情報が来ない中、自主的に全町民避難を決断し、受け入れ先の自治体と交渉し、バスやトラックを確保し、食事や毛布を提供する。しかも、時間の猶予はほとんどない。そんなミッション・インポッシブルの中に、市町村職員はいやおうなく放り込まれる。国は「計画」の策定ばかりを求め、県は自ら物資を運んでくることさえしない中で。

だがそんな経験が、自治体職員としての力量を一挙に高めたことも否定できない。「もし我々であれば、もう一回あっても、今度は自信持ってできます(笑)。もう一回同じことあったら、もっとうまくやるよね(笑)」(p.54)と語るのは、富岡町で全町民避難を主導した職員だ。国や県の右往左往と比べて、その言葉はなんと心強く、頼もしいことか。

それでも、彼らがおかれた環境が過酷だったことには変わりはない。自らも家族も被災し、精神的に余裕がない中で、住民の罵倒を浴びながら最前線でやったこともない仕事をこなさなければならない。メンタルリスクが極めて高い仕事である。「私たち職員も被災者だった。しかし、市職員でもあった」(p.77)という南相馬市の職員の言葉が、なんとも重く響く。

市町村職員の仕事が完璧だったというつもりはない。だいたい、災害対応業務に完璧などありえない。問題は、この稀有の体験をどのようにして後世に承継していくか、である。喉元過ぎて熱さを忘れた連中が、原発を次々に再稼働させ、「有権者」のみなさまがそうした連中に投票している以上、同じようなことがいずれ起きるのは明らかだ。とすれば原発立地市町村に必要なのは、国からも県からもいっさいの情報が入らないなかで、自前で情報を収集し、的確に判断し、迅速に行動できるような力量を、個々の自治体職員が身につけておくことであろう。本書はそのための、おそらく唯一のテキストブックであり、手引書になるはずの一冊だ。

 

 

防災の決め手「災害エスノグラフィー」 ~阪神・淡路大震災 秘められた証言

防災の決め手「災害エスノグラフィー」 ~阪神・淡路大震災 秘められた証言