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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2189冊目】宮城公博『外道クライマー』

 「右手は今にもちぎれそうな草を鷲掴みにし、左手は粘膜たっぷりのカエルの穴蔵に突っ込む。両足は泥だか岩だか分からないようなものに乗せ、なんとか手を伸ばして這い上がろうとすると、次に掴まなければならないのはヘビがとぐろを巻いている細い枝だ。下は濁流が渦巻いており、落ちればどう考えても助からない。「頼むぞ」と声を上げ、まさに頼みの綱であるロープを握っている。パートナーを振り返れば、なんとロープなんぞ握っていない。両手を離して煙草に火をつけるのに必死でロープのことなんて忘れている」

 

外道クライマー

外道クライマー

 

 

登山の中に「沢登り」なるジャンルがあることは、本書を読んで初めて知った。

沢登りと聞くと、ハードなクライミングと違ってのどかで平坦な印象があるが、本書を読めばそれがとんでもない間違いであることがわかる。そのすさまじさを、名うての「沢ヤ」である著者は冒頭のように描写する。

名だたる高峰がことごとく制覇されてしまった今、未踏の世界は「沢登り」のほうにたくさん残されているという。特に「ゴルジュ」と呼ばれる、両側を切り立った崖に囲まれた水路や滝を登るキツさはすさまじい。

本書ではそんな「ゴルジュ」である富山県の「称名廊下」や台湾の「チャーカンシー」、さらにはタイのジャングルでの46日間にわたる沢登りを記録した、他に類を見ないワイルドでエキサイティングな一冊である。そこにあるのは、沢登りという「外道」でありながら、実は登山の「王道」をまっすぐ突き進んでいるとしか思えない、狂気と紙一重の情熱だ。

「登山とは、狂気を孕んだ表現活動なのだ」

 


その意味を肌身で感じることのできる、前代未聞の「沢登り」ノンフィクション。