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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2068冊目】宮部みゆき『荒神』

謎・恐怖・幻想

 

荒神

荒神

 

 
江戸時代の架空の藩「香山藩」と「永津野藩」を舞台にした、なんと怪物小説。怪物のような小説という意味ではなく、本当に怪物が出てくるのだ。

ある種のパニック小説なのであるが、そこに2つの藩の確執と因縁を絡めて奥行きをもたせつつ、500ページ以上を一気に読ませるという、さすがの力技小説。荒唐無稽とも思える題材から長大な物語を紡ぎだす腕っぷしの強さは、宮部みゆきスティーヴン・キングか、といったところ。

怪物の気配を冒頭から漂わせつつ、著者は決して急がない。香山藩と永津野藩を行ったり来たりしながら、たくさんの登場人物をじっくり書き分け、さらには歴史の因縁を徐々に明らかにしていく。ここの「溜め」があればあるほど、後半の加速が効くのである。しかも怪物の姿が物語の半ば、ページ数でいうと250ページあたりまで出てこない。スピルバーグが『ジョーズ』でやったことと同じである。さすがにこの手の小説の骨法をよくわかっていらっしゃる。

それだけに、怪物が永津野藩の砦を襲うところからの展開は容赦ない。両藩の登場人物が一挙にねじり合わされ、過去の秘密が明らかになり、そして壮絶なラストシーンまで物語は猛スピードで進んでいく。特に砦の襲撃シーンでは、そこまで抑えに抑えた筆致を、著者が一気に解放しているのを感じる。絶対に楽しんで書いているな、これは。

そういうことで、エンタメとしては申し分のない作品なのだが、あえてひとつだけ気になったことを言うと、怪物の由来や正体について、いささか理が勝ちすぎているように感じた。小説の舞台が福島あたりということもあって、あまりにも怪物が「原発メタファー」「核兵器メタファー」に読めてしまうのだ。もっとわけのわからない絶対的な悪の塊であったほうが、読み手は絶対に怖いと思うのだが。キングだったらたぶんそうするのではなかろうか。『IT』や『ニードフル・シングス』がそうだったように。