自治体職員の読書ノート

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【1861冊目】松岡正剛他『匠の流儀』

 

匠の流儀: 経済と技能のあいだ

匠の流儀: 経済と技能のあいだ

 

 

ネットワンシステムズが主宰し、松岡正剛が組み立てた「縁座」の記録。田中優子中谷巌を専任講師とした第一期、松本健一をはじめ多くの特別ゲストを招いて行われた第二期から、講演とセッションを中心にまとめた一冊だ。

最初は中谷巌田中優子のソロ講義。グローバリズムと日本の関係を読み解く中谷巌の講義も読みごたえがあるが、個人的には田中優子の「江戸の価値観から日本を見る」がおもしろかった。さらに松岡正剛も加わったセッションでは、3人の相互誘発で目からウロコの連続。中でも田中優子の「江戸時代には「個人」も「集団」もなかった」という発言には、目を洗われた。

そのため、明治初期の日本人は、歩調を合わせて集団で歩くことができず、「行進」を教育の中に取り入れたのだという(それが今の、軍事教練みたいな体育のカリキュラムや、運動会でのめったやたらな「行進」につながっているのだろう)。「集団主義」が日本人の特徴と言われることがあるが、それは早くても明治以降のことだったのだ。では「集団」の代わりに何があったかといえば、それは「連」に代表される「関係」であった、というのも興味深いところである。

後半ではなんといっても、亡くなる二年前の松本健一の、講義やセッションでの発言がおもしろい。幕末から明治の日本における「最大の謎」ともいえる西郷隆盛を軸に「海からみた近代日本」を展開する講義では「戊辰戦争は日の丸と菊の御紋の戦い」という切り取り方がなかなかに大胆不敵である。ちなみに「日の丸」を掲げたのは、旧幕府側。日の丸は、戊辰戦争においては、明治政府にとっての「賊軍」が掲げた旗だったのだ。

隈研吾松岡正剛とのセッションも刺戟的だった。やや傍論だが気になったのは「なぜ村上春樹ノーベル文学賞を取れないのか」という松本の話。2006年のトルコでの講演で、彼はオルハン・パムクの受賞を「予告」したのだそうだ。ではなぜ村上春樹ではムリなのか……という点は、ぜひ本書をお読みください。

本書のテーマでもある「匠」について触れられなかったが、これは冒頭の中谷巌の講義とも絡んで、欧米流のグローバリズムに対する日本のあり方として論じられているものだ。ネットワンの吉野氏は、「匠」は単なる職人というだけでなく、そこには「リスペクト」と「人徳」のふたつがなければならないと言い、松岡正剛もそれを受けて、匠は「工」でも「巧み」でもあり、「職人的なエンジニアリングがすぐれているだけではなく、リーダーたらんとする「構匠」としての能力も求められる」と答えている。

欧米中心に組み立てられた現在の経済システムや社会システムに、日本は果たしてどう向き合って行けばよいのか。何を取り入れ、何を捨てて、何を残し、どう変わっていくべきなのか。「縁座」は、そうした問題意識や危機感を抱いたビジネスマンたちによって始められたという。だからこそ本書の内容は、きわめて本質的かつ根本的ながら、一方で非常に現実的で応用性に富んだものとなっている。ビジネス関係者ならずとも、いろいろなヒントが得られそうな一冊だ。