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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1853冊目】ジェフリー・ディーヴァー『シャドウ・ストーカー』

 

シャドウ・ストーカー

シャドウ・ストーカー

 

 

ディーヴァー作品、最近はご無沙汰だった。いつのまにか既刊が増えていた。相変わらずのコンスタントな刊行ペースが驚異的だ。

ドンデン返しが面白いとかつまらんとか、いろいろ賛否両論はあるらしい。確かにディーヴァーは「ひねり」の名手だが、そればかりを期待されても困るだろう。期待を上回る展開にすると「やりすぎ」と言われるし、抑え目にすると「物足りない」と言われるし。

むしろ、本書を読んで感じたのは、無理に先読みをするよりも、ディーヴァーのペースにあえて乗せられてしまったほうが、純粋に物語を楽しめるのではないか、ということだ。実際、「ひねり」だけでこの400ページ以上の小説を読ませるのはムリな話だ。そこだけに注目しすぎてしまうと、かえってつまらない時間を過ごすことになるような気がする。

主人公は「人間嘘発見器」キャサリン・ダンス。休暇で訪れた地で人気歌手のストーカー事件に巻き込まれるという、ある意味きわめて現代的なテーマが扱われている。しかも連続殺人が、その歌手ケイリーのヒットソングの歌詞になぞらえて起きるという、まさにクリスティのマザー・グース殺人の世界である(ただし、歌詞と殺人の「絡み」はやや薄いような気がする)。

そして、本書を読んで驚いたのが、圧倒的な音楽ウンチク。小説の中のウンチクといえば『白鯨』のクジラ語りや『レ・ミゼラブル』のパリ語りなどいろいろあるが、エンタメ小説でここまでウンチクを詰め込んだものはちょっと珍しいのではないか(もっとも、日本には京極堂シリーズという堂々たる「蘊蓄ミステリ」が存在するが)。

はっきり言って、ずば抜けた傑作というワケではない。だが、見事な語り口、音楽への作者のリスペクト、印象的な登場人物が揃い、安定したエンターテインメントを提供するという、アベレージの高い作品である。ちなみに本書に登場する曲をプロの歌手が実際に歌い、それが販売までされているというから面白い。ディーヴァーがこれほど音楽好きだとは知らなかった。