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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1814冊目】秋山邦晴・武満徹『シネ・ミュージック講座』

シネ・ミュージック講座―映画音楽の100年を聴く

シネ・ミュージック講座―映画音楽の100年を聴く

映画本12冊目。いったんここで一区切り。

さて、本書は、著者(秋山氏)晩年のラジオ放送「映画音楽一〇〇年史」の原稿をベースに、武満徹との対談を採録した一冊だ。サイレント映画から1990年代の映画までを「音楽」という切り口から総覧している。

そもそも、映画と音楽は最初から一緒だった。「世界最初の映画」リュミエール兄弟のシネマトグラフにおいて、すでに上映の際にはピアノが演奏されたという。最初は既成曲が使われたが、やがて映画のための音楽が作曲されるようになった。アメリカでは1910年代、フランスではなんと、1908年に『ギーズ公の暗殺』の音楽が、なんとかの大作曲家サン=サーンスによって作曲されたという。

ちなみにクラシック畑の作曲家で映画音楽に携わっていた人は案外多く、本書で紹介されているだけでもショスタコーヴィッチ、プロコフィエフ、サティ、リヒャルト・シュトラウスなど枚挙に暇がない。

おもしろいのはシェーンベルクのエピソードで、パール・バックの『大地』の映画化にあたって作曲を依頼された時、「スコアには何ひとつ手を入れないという絶対的な保証がなければ作曲できない」「まず私が音楽を書きましょう、それからあなたたちがそれにふさわしい映画を作ったらよいでしょう」と言ったという。

なんともワガママな要求であるが、一方でシェーンベルクは「映画の一場面のための伴奏音楽」という曲を、なんと想像上の映画のための音楽として作ったというから、なんともややこしい。たぶん正直なところ、映画音楽はやりたかったのだろう。ただそれを映画監督にいじくられるのがイヤだったのだ。

もっともこの点については、オネゲルも「映画監督というのは、最もタチの悪い人たちだ」「1秒半の嵐の場面に嵐の主題を書け、あるいはまた0.5秒の牧師のクローズ・アップに牧師のテーマを書け、そんな要求をしてくる」などと書いているそうだから、作曲家なら誰しも思うことなのかもしれない。

だがそれは、映画音楽というものの性質を考えたら(1秒半と0.5秒というのはあんまりだが)ある程度やむを得ないことなのだろう。シェーンベルクが何と言おうと、映画音楽はやはり映画そのものに従属しているものなのだ。著者はその特徴を「演出する音楽」「録音する音楽」と表現する。

演出というのは当然だが、「録音する音楽」という視点はおもしろい。というのは、映画音楽は必ずしもコンサートホールでの演奏を前提としなくてよいので、これまでできなかったような表現が可能になってくるからだ。ノイズを入れたり、録音した音を伸び縮みさせて再現したり……。中にはモーリス・ジョベールのように、音楽を逆回転させるという「荒技」を試みたケースさえあるらしい。

さて、本書は音楽にフォーカスしつつ、映画草創期から現代までを辿っているのだが、ちょっとめずらしいのは、10章のうち2章をアニメーション音楽に充てている点だ(1章は欧米の、もう1章は日本の)。映画史を綴った本で、ここまでアニメーションに比重を置いた本はなかなかないのではなかろうか。

中でも画期的とされているのは、ディズニー映画における音楽の扱い方だ。ここではアニメーション映画ならではの「絵の動きと音楽とを常に密着させ、同調させる」というやり方が徹底されたという。「ミッキーが歩けば、音楽もその足どりのリズムで奏され」、「ミッキーがガケから滑り落ちれば、音楽もグリッサンドで音を滑らせるように下降させる」というような音楽表現は、今では当たり前になっているが、考えてみればものすごい創意である。

しかもディズニー映画は「星に願いを」「ビビディ・バビディ・ブー」「ハイホー」などの、歴史に残る名曲を生みだした。映画から生まれた歌は数あれど、ディズニー映画の音楽ほどスタンダード・ナンバーを数多く生み出したものはあるまい。その伝統は『アラジン』の「ア・ホール・ニュー・ワールド」や、最近では『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」まで続いている。

一方の日本アニメ界も、政岡憲三宇野誠一郎などによって大きな進展を遂げてきた。その成果は三枝成彰作曲の『機動戦士ガンダム』を経て、「ガムランケチャとロックをつき混ぜたような」大友克洋『AKIRA』における山城祥二の作曲にまで至るのだ。

さて、本書のもう一つの読みどころは、巻末に収められている武満徹との濃密きわまりない映画音楽対談だ。多くの映画音楽を自ら作曲し続けてきた武満との深い深い対話は、できれば実際に読んでいただきたい。なんとも味わい深く、武満ならではの映画音楽への「思い」と「技巧」に唸らされること請け合いである。ちなみにここでは「武満徹が選んだ映画音楽ベスト5」というのが載っており、これがちょっと面白い。こんな感じなのである。

アラン・ロブ=グリエ『不滅の女』(1963年)
溝口健二近松物語』(1955年)
アントニオーニ『太陽はひとりぼっち』(1961年)
アラン・レネ『二十四時間の情事』(1958年)
メリアン・C・クーパー他『キング・コング』(1932年)

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