自治体職員の読書ノート

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【1720冊目】篠原ウミハル『図書館の主』

図書館の主 1 (芳文社コミックス)

図書館の主 1 (芳文社コミックス)

図書館本13冊目。一応「司書つながり」。

舞台は児童公園の片隅にある「タチアオイ児童図書館」。そこで働く「無愛想で口が悪いがなぜか子どもには好かれる」司書、御子柴を軸に、来館者とのドラマや本との出会いが描かれている。

舞台が児童図書館だけに、子どもが絡む話が多い。出てくる本もほとんどが児童書だが(なにしろ児童書しかおいてない)、そこがなんとも懐かしく、ほんわかした気分になった。

出てくる児童書は名作、傑作ぞろいで、読んだことがない本はもちろん、既読の本も読みなおしてみたくなる。大人が児童書なんて、と思われるかもしれないが、いやいや、大人になって読む児童書はまた格別なのだ。読んだことがある本であればあるほど、読みなおしてみるとびっくりするような発見がいっぱいある。

実際、このマンガの最初に出てくるのはサラリーマンの「宮本課長」で、忘年会帰りにふらりと立ち寄ったこの図書館で出会ったのが『新見南吉童話集』なのだ。このセレクションがなんとも絶妙であるが、他にもこのマンガ、とにかく「選書」が小憎らしいほど巧いのだ。子どもでも大人でも、どんな人生であっても、その人生のその瞬間にこそ響きあう本というのが、どこかに必ずある(と思う)。そこをピンポイントですっと差し出せるというのは、なんと素晴らしいことだろう。

いろいろ好きなエピソードはあるのだが、印象に残ったのは、絵本作家を夢見ている伊崎という書店員の話である。自作の絵本を図書館のスタッフにケチョンケチョンにけなされてがっくりきている伊崎に、御子柴が「子どもたちの前でそれを読んでみろ」という。

しぶしぶ「読み聞かせ」を始める伊崎だが、子どもたちの反応を見ていくうちに、なんとどんどん、その場の思いつきでストーリーが変わっていく。もともとは影も形もなかった「悪キノコ」という悪役が出てきて勝手に暴れはじめ、最後はそいつをやっつけてみんなで食べてしまう。しかも「続編」までがそこから生まれてしまうのだ……

ウソみたいな筋書きだが、本書のなかで御子柴が言うとおり、キャロルの『不思議の国のアリス』だってこうやって生まれたのだ。他にも子どもに語るうちに物語がどんどんできていくというエピソードは、特に児童文学の世界では多い(たしかトールキンの『ホビットの冒険』もそうだったような)。ある意味このお話は、絵本が生まれる「王道」のプロセスをなぞってみせたものなのだ。

それなりの誇張もドタバタもあるが、その中に図書館の理想と現実、その中で働く職員の矜持のようなものがいっぱいに詰まった作品だ。そして何より、登場する児童文学を通じて、読み手の童心がむずむずと動き出すのである。良いマンガであった。

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