自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1721冊目】千野信浩『図書館を使い倒す!』

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

図書館本14冊目。今度はユーザーサイドからの図書館論。

「図書館に行けば、調べたいものは「ほぼ」見つかる」(p.15)

本書の冒頭、著者はいきなりこう宣言する。ちなみに著者は「週刊ダイヤモンド」記者。調べて裏を取るのが仕事である人がこう言い切るところに説得力がある。ちなみにこの宣言には続きがあって「見つからないものは本当に存在しないか、隠し立てされたものか、まだ日の目を見ていないものだと思えばいい」のだそうだ。

これほど図書館に信頼を寄せる理由は、本書を読めばよくわかる。国立国会図書館という圧倒的なアーカイブにはじまり、郷土資料なら地域図書館、専門的な資料なら専門図書館、さらには大学図書館に官公庁図書館、さらには行政情報コーナーのようなところまでを視野に入れれば、この日本には、実は「何かの資料が刊行されていれば、それはたいていどこかにある」ことになっているらしいのだ。

とはいえ、その「使い方」は単純ではない。国会図書館になくても専門図書館にある資料というのもあるし、利用のルールも図書館によってさまざまだ。行政情報だと情報公開請求が絡んでくる場合もあるし、保存年限の関係で、古い資料になればなるほど揃えにくい。

資料の探し方のテクニックは、さすが本職のジャーナリストだけに参考になる。例えば著者は図書館がネットより優れている点として、これは開架式の場合に限るが、「あいまいに探す」ことを第一鉄則、「鋭く手に入れる」ことを第二鉄則としている。

確かに、目当ての本をピンポイントで探す場合はともかく、「なんとなく」関連する本を探す場合には、本棚をブラウジングすることが、その分野に関する全体像をイメージし、切り口を探す上では重要である。

この「なんとなく」がネットでは難しい。確かにいろんな情報は出てくるが玉石混交が著しい上、どうしてもキーワード単位の検索になってしまうため、図書館のようなアナログでファジーな「同じ分類とされている本をなんとなく眺める」というやり方が取りにくいのだ。amazonでも似たような機能はあるが、図書館ほどの有用性はない。

灰色文献」というのも初めて知った。これは国会図書館が集められない資料のような「存在確認や入手が困難な資料」を言うらしく、具体的には取次を通さない会員制情報誌、パンフレット、社史・団体史、外国の文献などのことなのだが、これを集められているかどうかが図書館の専門性の差なのである。「専門性の高さとは、こうした灰色文献の有無で決まると断言していい」(p.20)という指摘は、さらりと書いてあるが、実はけっこう重要だ。

ちなみにこの灰色文献の「巣窟」が各官庁の官庁内図書館だという。本書にはこの「知られざる」官庁図書館の所蔵文献や利用ガイドまで載っているが、見てみると本当にいろいろな資料がある。今はさすがにないと思うが、ある官庁では職員の名前に住所、携帯電話の番号まで書いた資料が堂々と公開の官庁内図書館で開示されていたらしい。恐ろしい。

裏事情を知らない(あるいは知っていても斟酌しない)、利用者目線に徹した本であるがゆえに、「運営側」へのヒントも多い。ページ数は決して多くないが、内容はかなり濃く、しかも実用的である。プロの「調べ方」がよくわかる一冊だ。