自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1719冊目】ゴットフリート・ロスト『司書』

司書

司書

図書館本12冊目。そろそろ図書館の「人」に着目してみたい。

図書館の建物がどんなに綺麗でも、蔵書がどんなに豊富でも、それだけでは図書館とはいえない。そこには「司書」が必要だ。

本書はドイツ図書館の初代館長によって書かれた、意外きわまりない「司書史」である。「歴史的職業像」というタイトルで刊行されたシリーズの一冊らしい。現代日本で司書になろうとする人にとって、直接役に立つ本ではないが、司書の役割とイメージの変遷を知る上ではおもしろい。

たとえば古代ローマでは、図書館の運営管理は学者が行ったが、実際に図書(巻物)の複写、手入れ、探したり元の場所に戻す作業は奴隷の役割だった。中世の修道院では、司書(文庫係)は修道院長に次ぐ地位だった。近世以降、司書の多くは学者でもあった。カントやライプニッツゲーテも司書の経歴をもっていた。

一方、仕事をさぼる司書のことも本書ではたっぷり書かれている。「多くの者にとって司書の職はもっぱら、たんまりとはいかないが、不労所得のある地位だった」(p.101)のだ。酔っ払ってばかりいた司書、本を盗んで解雇された司書。「虚弱」というのも司書の代名詞だった(特に「弱視」)。ハインリヒ・ウレンダールという司書は、プロイセン国立図書館に就職したとき、総館長夫人から「それでどこがお悪いんですの?」と尋ねられたという。

さらにこの本には「司書の死」を扱った項目まである。そこでは著者は大真面目に司書の死の記録を列挙する。首を吊った司書、アヘンで自殺した司書、墜落して死んだ司書……。なかでも司書の「殉職」は重要で、図書館が火事になった際に燃えさかる建物から写本や文書を投げだしているうちに死んだ例、冷え切った図書館で心臓麻痺を起こした例が挙げられ、一般に多いと思われている梯子からの転落による死は「わずか3件しかない」という。

さて、著者によると、司書は19世紀になってようやく「専業」の職業となったという。司書になるための資格試験や実習要件が定められた。その背景にあったのは、19世紀後半の大きな経済的・政治的・文化的変化によって「図書館の蔵書の、計画的な構成と目的にかなった使用」(p.160)が迫られたという事情であった。もっとも、それでも司書が「変わり者」扱いされていたことは変わりなかったようで、1974年、フランク・ハイトマンはこう言ったという。

「人づきの悪い、そして/もしくは扱いにくい連中、身体的欠陥、ならびに/あるいは病気をもっている連中、成績の悪い、そして/ないしは大学を中退した連中に、司書職を薦める傾向が職業指導員の側にあるようだ」(p.166)


しかしやはり、なんだかんだ言っても司書こそは、図書館を司る司祭であり、利用者の求めに応じてぴったりの本を取り出す魔術師であり、にもかかわらず決して自らは主張しない隠者なのだ。だいたい「書を司る」というネーミングが素晴らしい。

そして図書館は、これまで常に(いろんな人間がいたにしても)司書を伴って歴史を歩み、発展してきたのである。となると、司書(有資格の司書に限らず「司書的役割」を果たす人間、ということだが)がいない図書館も最近多くなってきているらしいが、歴史上の文脈から言って、それって果して「図書館」と言えるのだろうか? だってそれって、神主のいない神社、医者のいない病院、教師のいない学校のようなものではないか。

それに、そんなに司書の職を減らしてしまったら、いつの時代にもいる、上に挙げたような風変わりな連中は、いったいどこに就職すればよいというのだろうか。失業対策上も、司書という「職」は重要なのだ……