自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1622冊目】NHK「ポスト恐竜」プロジェクト『恐竜絶滅 ほ乳類の戦い』

恐竜絶滅

恐竜絶滅

2010年に放映された「NHKスペシャル」の書籍化。ちなみに、2006年に「恐竜vsほ乳類」として放映されたものの続編という扱いらしいが、本書だけでも太古の世界のミステリーとドラマは存分に堪能できる。

タイトルには「恐竜」がついているが、主役はサブタイトルの「ほ乳類」のほう。ちなみに「哺乳類」じゃないのは、刊行当時の常用漢字に「哺」が入っていないからだと思うんだが、見た目ちょっとマヌケですな(「哺」は2010年11月の常用漢字改訂で入れてもらえたらしい)。こういう表記の仕方は好きではないので、以下では「哺乳類」で統一する。念のため。

それにしても「恐竜」という二文字を見るだけで、私なんぞはなんだかわけもなくウキウキ、ゾクゾクしてしまう。今はすっかり遠ざかってしまったが、ご多分にもれず、私も子供のことはいっぱしの恐竜博士、恐竜オタクだったのだ。まあ、もうウン十年前の話であるから、日進月歩のこの業界、知識を覚えていても全然使い物にはならないだろうが……

まあ、そういうわけで、本書の隠れた主役は哺乳類だと分かったとたん、ちょっと気持ちが萎えたのだが、それでも読み進むうちに、今度は哺乳類の歴史から目が離せなくなった。恐竜ほどのハデさはないものの、この世界もまた、実に奥が深い。

そもそも、恐竜と哺乳類は、その歴史のかなりの期間が「かぶっている」。具体的に言えば、恐竜は今から2億3000万年前に登場し、6550年前に絶滅した。一方、哺乳類は今から2億2000万年前に登場、現在にいたっている。つまり、恐竜と哺乳類は進化のタイムテーブルで見れば「ほとんど同時」に出現し、なんと1億6000万年以上を「共に」過ごしてきたのだ。

しかも、当時の環境は哺乳類にとって圧倒的不利だった。本書の前半は、哺乳類の恐竜に対する優位性をひとつずつはぎ取るプロセスである。恐竜は、鈍重だったと思われがちだが実はその巨体にも関わらず素早く移動することができた。外温性で環境の変化に弱いと思われていたが実は内温性だった。卵生のため卵を哺乳類に食べられたと言われているが、実は卵を抱えて移動できた。さらには羽毛さえ生やすことができたのである。哺乳類が今の世の中に生き残ったのは、哺乳類が優越していたからではなく、隕石衝突という「たまたま」の結果にすぎない。

そう、恐竜絶滅の原因は、今や隕石衝突であると断定されているらしいのだ(2010年春に「結論」が出たらしい)。1億6000万年前、火星の先にある小惑星帯で直径60キロと160キロの小天体が衝突して生まれた「バティスティーナ小惑星族」から地球に隕石がやってきた可能性が90パーセント以上、というところまで分かっているらしい。

さて、ではそのビッグ・インパクトでなぜ恐竜がものの見事に全滅し、小さくか弱い存在だった哺乳類が生き残れたのか、ということになってくるのだが、この点については哺乳類もその大部分が滅びたということ、特に巨体で大量の食物を必要とした恐竜にとって隕石落下による地球の「冷え込み」が致命的だったことなど、いくつかの理由が絡み合っている。まあ、そのあたりの解説は本書をお読みいただくとして、本書が面白いのは実はその後なのだ。

恐竜絶滅後は生き残った哺乳類の天下となった……と思われがちだが、実は恐竜以外にも、哺乳類にはたくさんの脅威があったという。中でも強敵は「トリ」と「ワニ」だったという。恐竜に代わる脅威としてはちょっとインパクトに欠けるようにも思えるが、本書に登場する全長2メートルの巨鳥ガストルニスや、やはり全長2メートルの巨大ワニ、ディプロキノドンのド迫力イラストを見ると、これでは図体の小さな哺乳類には勝ち目がないと言わざるを得ない。

ちなみにご存知の方も多いと思うが、鳥もまた(というか、鳥のほうこそ)恐竜から進化したのである。その過渡期に登場した「羽毛恐竜」も含め、ここもまた非常に面白いところなのだが、今回は割愛する。本を読まれたい。

さて、ではどのようにして、これらの「強敵」を退けて哺乳類が地球の覇者になったかというと、実に意外な結論なのだが、「哺乳類が環境に合わせて進化し、特殊化していなかったから」であるという。

多くの生き物にも言えることだが、ある環境にあまりにも適応・順応してしまった生物は、かえって環境の変化により絶滅する可能性が高い。そのため、巨鳥や巨ワニが地球環境の変化についていけず姿を消した一方、哺乳類はいわば「真っ白なキャンバス」状態だったため、環境に合わせて柔軟に変化することができ、地球環境の変化に対応して生き残ることができたのだ。そのため、ライバルたちがいなくなった地球で爆発的に進化したのは、長い雌伏の期間を耐えてきた哺乳類だった……というのである。

しかしこれは、哺乳類が多様化した現代こそ、哺乳類が「絶滅しやすくなっている」時期である、ということをも意味しているのだ。進化すれば特殊化し、特殊化すれば絶滅しやすくなる。地球と生命のサイクルとは、なんとうまくできていることか。

本書は人類の誕生のところで終わる。しかしここまで読んでくると、「優れていたから生き残った」などという薄っぺらい適者生存説など、到底唱えられなくなっている。いわんや「ホモ・サピエンス」をや。だいたい何をもって「適者」というかなど、一律には決められないのだ。恐竜だってジュラ紀白亜紀には地球最強の「適者」だった。だがそのことが、結果として絶滅につながってしまったのだ。

まあ、そうした理屈面を抜きにしても、本書は眺めているだけでも抜群に面白い。前ページフルカラーで、恐竜や巨大ワニ、今や絶滅した太古の哺乳類の奇妙キテレツなイラストがびっしり収められている。子供のころ、この本を読んでいたら、ひょっとして「哺乳類マニア」になっていたかも……?