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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1506冊目】ディー・ブラウン『わが魂を聖地に埋めよ』

歴史・文化・民俗

文庫 わが魂を聖地に埋めよ 上 (草思社文庫)

文庫 わが魂を聖地に埋めよ 上 (草思社文庫)

文庫 わが魂を聖地に埋めよ 下 (草思社文庫)

文庫 わが魂を聖地に埋めよ 下 (草思社文庫)

心をえぐられる一冊。読み進めるのがつらかった。

今まで読んだ中で似たような本を探すとすれば、ラス・カサスがラテンアメリカでのスペイン人の暴虐を綴った『インディアスの破壊についての簡潔な報告』が近い。だがラス・カサスの「報告」はせいぜい200ページくらいだったのに対して、本書は上下巻あわせて760ページ以上にわたり、延々とインディアンをめぐる凄惨な歴史が展開されている。

あまりの悲惨さ、あまりの白人たちの身勝手さに、何度読むのが耐えられなくなり、本を閉じようと思ったことか。でも閉じられなかった。これは知らなければならないことだ、という声が、ずっと頭の中で聞こえていた。アメリカ人がどうのこうのというより、人間が同じ人間にここまでできるという「極限事例」のひとつとして、本書は人類の必読書である。

今はどうか知らないが、私が高校生の頃、コロンブスはアメリカ大陸を「発見した」と教科書に書かれていたように思う。だが、そうした言い方自体、西欧中心史観にどっぷりと漬かったものだ。白人たちがやってくる前、そこにはインディアンたちがすでに生活を営んでいたのだ(彼らを「ネイティブ・アメリカン」と呼ぶ向きもあるが、本書ではあえて「インディアン」の呼び名で統一しているので、それに合わせる)。

そこにやってきた白人たちは、土地が欲しいと言いだした。インディアンたちは快く土地を明け渡した。すると今度は、白人たちは土地の上に勝手に線を引き、お前らはこの線の向こう側で生活しろと言いだした。しかも白人たちは木を引きぬき、森を破壊し、川を汚し、豊かな土壌を荒らし、インディアンの生活の糧であったバッファローを絶滅に追い込んだ。

インディアンたちは「条約」によって保留地に囲い込まれた。白人たちが土地を荒らしてしまったので生活できないと訴えると、アメリカ政府は食糧や物資を施した。しかも政府が供給するはずだった配給物は途中で横流しされ、インディアンの手元には一部しか届かなかった。

勝手な移動は禁じられた。真冬だろうが炎天下だろうが、白人たちは「条約」を一方的に変更し、インディアンたちを無理やり移動させた。マラリアの蔓延する南部に移動させられ、飢えもあって大量のインディアンたちが死んだ。反発すると力で抑え込まれた。たまりかねて武器を取ると、最新鋭の武器を持ったたくさんの兵士がやってきて、女子どもに至るまでことごとく虐殺された。

時は19世紀後半。南北戦争があり、黒人に公民権を与える公民権法が成立した頃である。だが、最初からアメリカ大陸に住んでいたはずのインディアンたちには、公民権は与えられず、人間扱いさえしてもらえなかった。「良いインディアンは死んだインディアンだけだ」などという言葉が人口に膾炙した。西部に金が埋まっているという噂が広まると、採掘者たちがインディアンの土地にやってきて、無理やり土地を奪っていった。

フロンティア・スピリッツ。開拓者。西部劇。カウボーイ。そんなもの、くそくらえである。ジョン・ローガン上院議員はインディアンの英雄シッティング・ブルに対し、こう言い放ったという。まあ聞いてほしい。

「おまえが持っているもの、またおまえが今日あるのは、いずれも政府のおかげによるのだ。政府が力をかさなければ、おまえはいまごろ山の中で凍え、飢えているに違いない…(略)…政府はいまお前に衣食を与え、おまえたちの子どもを教育しており、おまえたちには農民になることを教え、文明の恩恵をほどこし、おまえたちを白人にしてやりたいと望んでいるのだ」(下巻p.342)

書き写しているだけでハラワタが煮えくりかえってくるが、つまりはこれが、決して忘れてはならないアメリカの「もうひとつの歴史」なのだ……というか、もし正しい歴史というものがあるとすれば、これこそがそれにあたると考えるべきだろう。アメリカの大地は、べったりと血に濡れているのである。罪なきインディアンたちが流した血によって。

「自由に生まれた人間が監禁され、行きたいところへ行く自由を否定されて、なおかつその境遇に満足していられるとしたら、川だって逆に流れかねない。……私は白人の大酋長たちに、白人は好みのままに動きまわらせておきながら、インディアンにたいしては一か所にじっとしていろと命ずる権限はどこからきたのかとたずねてみた。だが、彼らはそれに答えられない。
 私を自由な人間にしてもらいたい。自由に旅行し、好きなところで足をとめ、自由に働き、気に入ったところで取引をし、自分で教師を選び、先祖の宗教に従い、独自に考え、話し、行動しうる自由な人間にしてもらいたい。そうしてくれれば、私はあらゆる法律に従い、処罰もうけよう」(下巻p.190 スー族酋長ジョゼフのワシントンでの発言)

この言葉に応えるべき何かを、私たちは持っているだろうか……?

インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)