自治体職員の読書ノート

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【1485冊目】小田嶋隆『もっと地雷を踏む勇気』

もっと地雷を踏む勇気 ~わが炎上の日々 (生きる技術! 叢書)

もっと地雷を踏む勇気 ~わが炎上の日々 (生きる技術! 叢書)

日経ビジネスオンライン』上の連載がもとになっている。実は『地雷を踏む勇気』が一冊目らしいが、そっちはまだ読んでいない。

震災・原発、橋下市長ネタ、SNSやAKB総選挙など、タイムリーな時事ネタが多い。視点にキレがあって、しかもけっこう普遍的なところまで掘り下げて書かれているので、時間が経ってから読んでも面白いとは思う(というか、時間が経ってから読んだ方が真価が分かる)。

わからないことは「わからない」、興味がないことは「興味がない」と正直に言い切るところも正直で良い。分からないなら書くなよ、という意見もあるかもしれないが、例えばAKB総選挙について書いた「メディア総占拠の夜」(言うまでもなく「選挙」に「占拠」をかけている)などを読むと、「分からないからこそ書ける」ということもあるのだ、ということがよく分かる。

というか、ここに書かれた「メディアの人間にとってのAKBのアンタッチャブル加減」を読むと、かえって「分かっている顔をしてAKBを持ちあげている」メディア関係者のうさんくささが浮き上がって見えてくるから恐ろしい。そういえば、少し前の峰岸みなみ騒動なんて、周りの騒ぎ方のほうがちょっとブキミだった。

それにしても、ネタとの距離の取り方がこの人はホントにうまい。どっぷり浸からず、かといって見えないほど遠くにも行かず、「人の輪の外から覗き込む」ような絶妙な距離感を取ることによって、他の人がなかなか気づかない、あるいは気づいても「これはマズイかな……」と思うようなことをさらっと書いてしまう。

しかもそこには、猪突猛進しているようで、案外いろんな「保険」や「エクスキューズ」や「逃げ道」が巧みに埋め込まれているのである。「地雷を踏む」と著者は言うが、実は爆発しても足がふっとばないような仕掛けをちゃんとやっているのだ。

内容のすべてに同意できるわけではない。特に橋下市長の「独裁的手法」に触れつつ民主主義の重要性について書いたくだりでは、あまりにも民主主義というものをナイーブに信じておられるようで、ちょっとびっくりした。

「民主主義というのは、効率や効果よりも、手続きの正しさを重視する過程のことで、この迂遠さこそが、われわれが歴史から学んだ安全弁なのである」(p.18)という主張には、確かに一理ある。しかし、一方で民主主義が他の政治制度より強力な「独裁者製造装置」であり、「民主主義なのに独裁が起こる」のではなく「民主主義だからこそ独裁が起こる」というのも、またわれわれが歴史から学んだ教訓であるはずだ。橋下市長がコトあるごとに「民意」をタテに取るのは、彼のほうが民主主義の「ツールとしての凶悪さ」を認識しているためであろう。

とはいえ、本書で展開されている主張自体は、どれもきわめて「まっとう」だ。中には少々筋道をこねくり回し過ぎではないかと思えるものもあるが、根底にはきわめて健全な「常識」があるのが感じられる。大野更紗さんは本書のオビで「こんなニッポンにも、「真っ当なおじさん」がいた!」という言葉を寄せているが、まさに「真っ当」という言葉がぴったりだ。

むしろ、そういう「常識があり、真っ当なおじさん」(おじさんじゃなくてもいいけど)がおそろしく少なくなり、誰も彼もがAKB総占拠じゃなかった総選挙に熱狂してしまっている日本の現状こそが、実はものすごくヤバイことなんじゃないかという気がする。

いやいや、そういう人も世の中にけっこういることは知っているが、オダジマさんのようにそれを言語化してきっちり書いてくれる人が少なすぎるのだ。たぶんそういう役割をこそ、世の「コラムニスト」の方々は期待されているんでしょうけど……ねえ。

地雷を踏む勇気 ?人生のとるにたらない警句 (生きる技術!叢書)