【2108冊目】吉田徹『「野党」論』
個別の政党を論じたものはあるが、「野党」全般を正面から取り上げて、その意義を大真面目に論じた本は少ない。だが著者も述べている通り、野党なくして民主主義は成り立たないのである。「野党」の影がめっきり薄くなっている昨今こそ、読んでおきたい一冊だ。
野党とは「民意の残余」を汲み取ろうとすることで、国家を安定させる存在である。そもそも、民意とは多様なものだ。保守もあればリベラルもあり、新自由主義もあれば社会民主主義もある。いやいや、それよりもっとミクロな生活のレベルでも、いろんな意見があり、主張がある。
それが表出され、可視化されるのが、選挙というプロセスだ。だが、その結果勝った側=与党の側の意見ばかりがすべて、となってしまうと、無視された少数者の意見はかき消されてしまう。極端な話、某国のような一党独裁制では、その党の政策以外は「存在しない」も同じことになる。だがそれは、かえって少数者の恨みを沈潜させ、革命やテロリズムにもつながりかねない。
そこで「野党」の存在が大事になってくる。与党だけでは掬いきれない「民意の残余」を野党が表出し、それによって与党の政策を批判し、問題点を明らかにする(これを「抵抗型」の野党という)。あるいは、野党自身が政権交代を狙い、与党の地位を脅かす(「政権交代型」野党)。さらには、自らの主張に同意する勢力を増やし、多数の側になろうとする(「対決型」野党)というあり方だって考えらえれる。
いずれにせよ、ここでは野党はあえて「異物」であろうとするし、そうでなければならない。国民が一枚岩でない以上、「政治が一枚岩」であってはならないのだ。与党に対するオポジション、異物を取り込むことで、民主主義はかえって安定性を増す。それこそが野党の存在意義なのである。
本書はこうした基本認識をもとに、日本の戦後政治史をたどり、さらにはアメリカ、イギリス、ドイツなど諸外国の例を紹介、比較する。そこで見えてくるのは、どの国、どの制度も一長一短であり、日本人が大好きな「海外のお手本」などというものは存在しないということだ。日本はこれまで積み上げてきた日本型の民主主義システムをもとに、自らのやり方を試行錯誤しながら探していくしかないのである。