自治体職員の読書ノート

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【1439冊目】真山達志編著『ローカル・ガバメント論』

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

ガバメントからガバナンスへ、と言われるようになって久しい。

ガバナンスとは、多様なNPOや民間企業、町内会や商店街、さらには個人がネットワークをつくり、連携と協力によっていろいろな問題に取り組むことだ。「共治」なんて言われることもある。国や自治体の政府部門(ガバメント)はガバナンスにとって代わられるべきだ、と言われることもある。

だが、本当に「ガバメント」はもはや不要なのか。旧時代の遺物なのか。実際には、民間の役割が高まれば行政の役割が減じる、ということは、残念ながらあまりない。むしろ民間の役割が高まれば高まるほど、行政の役割もまた高まるのだ。ただし、その位置づけを大きく変えながら。

本書はそうした意味で、ガバナンス論の陰にかくれて追いやられがちだったガバメントにもう一度、丁寧に光を当て直した一冊である。もちろんそれは、以前のような行政が何でも自分で引き受け、市民は文句を言うことしかできない、といった旧態依然たる状態に戻るということではない。むしろ本書は、先ほど書いたように、ガバナンス論の高まりの中で位置づけを変えつつあるガバナンスの新しいありようを描きなおそうとしているように思われる。

まず「序章」がおもしろい。なんというか、われわれ自治体職員ではなかなか言えないことがハッキリ書かれていて、よくぞ言ってくれた、と快哉を叫びたくなる。特に次の文章は、地方分権の最近の「迷走」を的確に批評したものだと思う。少し長いが引用する。

「…しかし、地方分権金科玉条の如くに言われるようになり、地方分権を進めることに疑問を挟むことが許されない雰囲気が出てきている。その中でも特に目立つ現象は、地方自治の主体であり自治体の主人公であるとされる住民は、あたかも全知全能の神の如くあがめられ、一方で行政は諸悪の根源のように常に批判の対象にされることである。とりわけ、行政に対する批判と攻撃はマスコミを中心にエスカレートしており、情報番組やバラエティ番組のキャスターやコメンテーターは、とりあえず行政に問題があるとか行政が悪いと言っておけばよいと思っているようである。悪者を作ると、その裏返しで善人が生まれてくるのであるが、それが住民であり「民間」である。かくして、地方分権とそれと並行して進んでいる行政改革の流れの中で、行政性悪説と民間性善説が作り上げられてしまったのである。その結果、現在進んでいる地方分権は、本当に理想的な形なのか、大事なことを議論せずに勢いや流れだけで進んではいないかという検討が十分に行われていない。地方分権にも「良い地方分権」と「悪い地方分権」があるはずだ」(p.1〜2)

言っておくが私が言ってるんじゃないですよ。真山氏が仰ってるんです。

まあ、とはいえ行政に対する注文も本書ではかなりいろいろつけていただいており、拝聴すべき点も多い。とりわけ個人的に気になったのは第4章「危機管理と自治体」。危機管理というある意味「特殊」な場面だからこそ、普段は見えてこない行政の弱点や問題点があらわになる、と著者は言うが、同感だ。実際、東日本大震災への対応は、東北地方のみならず東京の自治体でも、いろんな欠陥を浮き彫りにした。

特に気になった点は2つ。まず、民営化や民間委託の推進が危機管理に深刻な影を落としていること。特に現業部門を民間化することで、土木部門や清掃部門など、災害時にもっとも必要な実働部隊がいなくなる。他自治体への応援態勢も満足にできなくなるのである。

もう1点は、いわゆる「大部屋主義」の弊害だ。特定の個人に明確な業務分担が割り振られ、責任が明確になる欧米型の「個人オフィス型」とは違い、日本の行政組織は相互に意見交換と調整を行い、集団的に意思決定をすることに慣れている。

「組織メンバーと相談したり、上司の指示を仰いだりしない限り、自己の責任で意思決定をすることができない。これは危機管理においては極めて深刻な問題である…(略)…個人の責任で意思決定をする習慣がなく、そのトレーニングを受けていない人には、危機管理業務を遂行することが困難になることが多い」(p.108)

危機管理が普段の行政の弱点をあらわにするとは、こういうことだ。ということは、そのための備えもまた、普段の行政の中でやっておかなければならない。もっといえば、平時の体制を災害時にはアレンジするのでは到底間に合わないため、平時から災害時の対応を織り込んだ体制をつくっておかなければならない。その必要性は、多くの自治体が東日本大震災で痛感したはずだ。危機管理部門があの日まともに機能した自治体が、いったいどれほどあっただろうか。

他にも本書は「マネジメント」「リレーションシップ」の二部構成で、議会、職員、民間化、地域自治組織、広域行政等、自治体の「ウチ」と「ソト」をめぐる論点をカバーし、それぞれにかなり鋭い論評を加えている。安易な行政批判にも、同時に安易な行政礼賛にも陥っていないだけに、正直な実感として、非常に参考になる点が多い。ひとつひとつ紹介すると膨大になってしまうが、本当は全部の章について書きたいくらいである。

編著者の言われる「良い地方分権」「良い地方行政」を実現するための羅針盤として使える一冊。興味がある章だけでも読まれると良い。